漫画『ドラゴン桜』を手掛けた漫画家・三田紀房氏が3月26日に東京・護国寺の講談社内で書籍『ボクは漫画家もどき イケてない男の人生大逆転劇』(講談社)発売記念会見を開催した。
書籍のオファーが来たのは「去年のちょうど今ぐらいの時期に、ずっと私とお付き合いがある講談社の編集者の方がいて、私の自伝を書籍にしたいと相談頂いたんです。『誰が読むの?』って、言ったんですけど、その方が、『定年退職で講談社を退社するんです。その最後に1冊出して、自分の編集人生を終わりたいって思う』と言われて。じゃあ、お餞別がわりにって」と、ご縁を大事にしたことがきっかけ。
漫画家生活を35年以上続けていながら、書籍のタイトルを“漫画家もどき”とした理由は2つあるという。「編集の方とタイトルをどうしようかって話になったんです。その宣伝文句の中に『人間万事塞翁が馬』とあったんですけど、ちょっとインパクトないなって。なんかこう、ひっかかりがないというか。そこで、読者の方に興味をもってもらって、頭に『?』マークが浮かぶようなものにしようとなって」と、目を引くものをと考えてたそう。
もう1つの理由は、漫画家生活をはじめて、「いろんな漫画家さんとたくさん交流することができたのですが、本当に天才ばかりなんです。特に女性の才能のすごさは、世界ぶっちぎりナンバーワンだと思います。質も量も本当にすごい。そういう方々から比べれば、やっぱり僕はするするっと隙間に入り込んで、周りを伺いながら生息している感じで。1つの生物群の中に、違うイメージのものがちょっと紛れ込んでるみたい、そんな意識がずっとあるんです」という心境からだそうだ。
家業の借金1億円を実兄とともに背負って過ごしたという20代に、返済で精神力が削られる中、気晴らしに漫画を書き出したという三田氏。30歳でデビューし、42歳でヒット作『ドラゴン桜』が出るまでは苦労の連続だったという。
『ドラゴン桜』を作るにあたっては編集者との会議で出来上がったといい、「もし“勉強が不得意な子が1年で東大に合格できるっていう漫画ならウケるかもね”と話したら、ベテラン編集者の方は『それは面白い!』と言ってくれたんです。でも、新入社員の子は『面白くないですね~』と言うんです。それでなんで面白くないの? と、聞いたら、『東大は結構みんな行くんですよね』『東大なんて簡単だ』と言うんです。何言ってんの? と思ったんですが、彼は東大出身で、高校も灘高校に通っていて同級生の半分は東大生みたいな感じだったんです。そこで、東大って意外と簡単なんだよってスタートすれば、読者は“なんで?”って理由が知りたくなるはずだと。世の中にちょっと注目してもらえる作品になるんじゃないかなって」と、引っかかるものがあったという。
「東大の彼がいなかったら、『東大なんて簡単ですよ』みたいなことを言わなかったら『ドラゴン桜』は本当になかったと思います。3人でコソコソ話したことが、たくさんの方に支持されて、子どもたちの学習モデルになるようになったというのは、とてもありがたいです」
そんなエピソードとともに世に出た『ドラゴン桜』だが、漫画内には実際に東大入試で出題された問題も掲載しており、「僕自身、この問題を解こうとする人がきっといるだろうなっていう、そういう目論みでいくつか入れてみたんです。そうしたら夜中の2時頃、編集部に答え合わせをしてくれと電話をかけてこられる方まで出て」と思わぬ反響があったという。「自分の発信したものが一方通行じゃなくて双方向の役割も担えるのかなって。変わった楽しみ方ではあるけど、読者の楽しみを提供できたのは嬉しいことだなって」と、その後の『ドラゴン桜』を描くうえで、その気づきを作品に取り入れたことも明かしていた。
書籍『ボクは漫画家もどき イケてない男の人生大逆転劇』は発売中!