『週刊少年サンデー』(小学館)に連載されている漫画『葬送のフリーレン』(原作:山田鐘人(やまだかねひと)氏/作画:アベツカサ氏)が『講談社漫画賞』の少年部門を受賞したことが7月31日に都内で開かれた贈呈式で発表された。
『講談社漫画賞』は講談社が日本の漫画の質的向上をはかり、その発展に寄与するため昭和52年から開催している漫画作品を対象とした漫画賞。今年で48回目となっている。
今回の受賞に原作を担当している山田鐘人氏、作画を担当しているアベツカサ氏からそれぞれコメントが寄せられた。
●山田鐘人氏
この度は、講談社漫画賞という歴史ある賞に選出いただきありがとうございます。他社の作品ながらこうして受賞できたことに驚いております。選考いただいた選考委員の先生方、ありがとうございます。受賞はひとえに関わってくださっている皆様のおかげです。いつも雑誌や単行本で読んでいただいている読者の皆様。1コマ1コマに素晴らしい絵を入れていただいているアベツカサ先生。編集部の皆様。販売・宣伝・流通に携わってくださる皆様。原作をとても丁寧に映像化してくださったアニメ関係者の皆様に心より感謝を申し上げます。
また、この作品を推薦してくださった講談社の皆様。まことにありがとうございます。
これからもフリーレンの旅路は続きますが、皆様とともに歩んでいけたらと思います。ありがとうございました。
●アベツカサ氏
この度は、栄えある賞に選んでいただき、まことにありがとうございます。選考委員のみなさま、選出いただきましてありがとうございます。
1話1話、1P1P、1コマ1コマ、山田先生のネームの面白さが読者の方々に伝わるように描いてきたつもりなので、多くの読者のみなさまに支えられて、こうして受賞させていただき、感無量です。
また、少年サンデーでの連載とコミックス制作を支えてくださっている関係各所のみなさま、この作品を推してくださった講談社のみなさまに心より御礼申し上げます。山田先生と、みなさまとで一緒に頂けた賞だと思っております。
今後も、講談社漫画賞という名誉ある賞に恥じない漫画づくりを頑張っていきたいと思います。
以上
当日、会場には週刊少年サンデー編集長の大嶋一範氏が代理出席となり「まず、両先生とも今回の受賞は大変お喜びになっていました」といい、「フリーレンの企画が、担当編集から編集部に提出されたのは、2019年のことでした。当初の担当との打ち合わせでは勇者・魔王物のギャグでいきましょうというものだったそうです。しかし、上がってきたものは、今みなさまがご覧になっている長命なエルフの魔法使いが、人間の勇者との死別を経て、両種族の生きる時間軸の違いに気づき、人間を知る旅に出るという、大変に感情を揺さぶる物語でした。その原作を新進気鋭の作家であるアベツカサ先生に読んでいただき、細やかな感情を描き切る魅力的な作画の誕生をいただきました。アベ先生はとても美しい物語だなと感じたそうです」など制作経緯などが明かされることとなった。
ほか、少女部門に『きみの横顔を見ていた』(著:いちのへ瑠美(るみ)氏)、総合部門に『メダリスト』(著:つるまいかだ氏)が輝いたことも発表となった。
■選考委員(五十音順)
・安藤なつみ氏
・海野つなみ氏
・小川悦司氏
・久米田康治氏
・はやみねかおる氏
・三田紀房氏
・幸村誠氏
■選考委員選評(『葬送のフリーレン』の少年部門選評部分抜粋)
●安藤なつみ氏
少年部門は定番のバトルを個性的な絵と多彩な技で魅せてくれる『ガチアクタ』に票を入れましたが、やはりこの傑作を無視できないと『葬送のフリーレン』に決まりました。
●海野つなみ氏
真っ当さが胸を刺す『薫る花は凛と咲く』、世界観の造形が凄まじい『ガチアクタ』、ずっと推しててやっと獲ったよ『葬送のフリーレン』、この先が楽しみすぎる『戦車椅子―TANK CHAIR―』、文句なしの面白さとキャラの良さ『黄泉のツガイ』。
●小川悦司氏
『葬送のフリーレン』は、読む程にほろ苦く美しい時間が味わい深く流れ、フリーレンのキャラも秀逸で、満を持しての受賞に納得でした。高いメジャー感と作家性の『黄泉のツガイ』、無双の画力『ガチアクタ』、若者の代弁者『薫る花は凛と咲く』もさることながら、個人的に『戦車椅子』のイカれっぷりはダントツの衝撃的面白さでした。
●久米田康治氏
少年部門は、やっぱり『葬送のフリーレン』。順当にフリーレン。そうだろうなフリーレン。この作品が獲らないのは、不自然でしょう。黄金郷編も素晴らしかったが、個人的には、時たま挟む短編が好きだ。それは音楽アルバムのように構成され、長編を続けて読むことに疲れた老漫画家に、心地よさを与えてくれる。自分が好きな短編は、依頼人も目的も知らずに、ただ老いてしまったアサシンの話。かつて工場でバイトしてた時、何に成るのか、何の部品かわからず、ただ不思議なパーツを作ってた頃の切なさを思い出した。2年連続ノミネートの『ガチアクタ』は、主人公が帰郷できても「マイナスがゼロに戻るだけで、カタルシスに欠ける」という身も蓋もない意見もあったが、疫病や戦争の蔓延する今の時代「日常に戻ることの大切さ」は読む者の心を打つと思った。今回もノミネート作はカロリーの高い作品が多かった。人とコストをかけ分業し、高い完成度を誇る作品群。もう漫画は個人で描く時代じゃないのかもしれないと思うと、一抹の寂しさを感じた。そんな中、『黄泉のツガイ』は、荒川先生の『個』のちからを見せつけてくれた希望であった(もちろんスタッフ達はいるだろうが)。漫画というのは「個」の表現媒体の範囲で、誰でも描けるものであって欲しいと願う反面、カロリーの高い作品の完成度を見せつけられると、どちらが正解なのか、わからなくなってくる。まぁ、制作過程は読者には、どうでもいいのかな。面白ければ、それでいいのだから。
●はやみねかおる氏
新鮮さで、『葬送のフリーレン』を推しました。RPGは苦手なのですが、関係なく最後まで読めました。魔法は何でもありという考えが間違ってたことを知りました。バトル系3作品中では、『黄泉のツガイ』が設定やストーリー展開で頭一つ抜きん出てるように感じました。
●三田紀房氏
少年部門の『葬送のフリーレン』がそのひとつで毎年あと一歩でしたが、優れたバランス、読後感の良さが高く評価され見事栄冠に輝きました。毎年少年部門はハイレベルな作品が多く、特に作画技術の高さには驚かされました。
●幸村誠氏
少年部門は『葬送のフリーレン』が満を持しての受賞でした。『ガチアクタ』、『黄泉のツガイ』、『戦車椅子』もそうですが、近年の少年部門は『異能力バトル』に偏る傾向が見られます。それ以外の良作もたくさん読みたいな、という個人的感想を持ちました。
■賞
正賞:賞状およびブロンズ像
副賞:金 百万円
取材・撮影:水華舞 (C)エッジライン/ニュースラウンジ