2025年2月のコンサート『THE BEST New HISTORY COMING』上演をもって再開発のために休館する東京・帝国劇場。
現・帝国劇場の魅力を収めた『帝国劇場アニバーサリーブック NEW HISTORY COMING』(東宝)が刊行され12月20日より帝国劇場窓口で先行販売を開始となるが、その巻頭に、作家・小川洋子氏がエッセイを寄せ、帝国劇場を題材とした小説を執筆していることがアナウンスされた。
小川氏は、帝国劇場を舞台にした小説連載『劇場という名の星座』を2025年2月より発売の月刊文芸誌『すばる』(集英社)2025年3月号より連載をスタートするという。小川氏といえば2022年に舞台にまつわる八編が収録した小説『掌に眠る舞台』を上梓しているが、その一編『ダブルフォルトの予言』は、帝国劇場の『レ・ミゼラブル』全公演に通う主人公が登場し、「失敗係」という不思議な存在に出会う物語となっており、大のミュージカルファンで劇場に足繁く通う小川氏だからこその着想で語られるストーリーとなっている。
新連載となる『劇場という名の星座』(「すばる」3月号掲載予定)の第一回『ホタルさんへの手紙』は、亡くなった父親の部屋の整理中、「1978 IMPERIAL THEATRE」と印字されたパンフレットを見つけるところから始まる。そこから明らかになるのは、ある日の帝国劇場で持たれた、ひとりの観客と客席の案内係とのささやかな交流となっている。
小川氏は今回の連載に向け、舞台を支えるさまざまな人々に熱心に取材を敢行。その中で小川氏は、客席の案内係、売店スタッフ、楽屋係、団体営業係、劇場専属カメラマン、劇団東宝現代劇劇団員、制作スタッフ、稽古ピアノ演奏者、そして、出演者の楽屋と舞台をつなぐ、現・帝国劇場ならではの楽屋エレベーター係の担当者など、外からはわからない帝国劇場でのさまざまな仕事に励むスタッフの姿に感銘を受けたという。
また、小川氏が、イマジネーションを膨らませるために、帝劇で数多くの名舞台に出演される俳優・松本白鸚、市村正親、堂本光一、井上芳雄に対面。4人の俳優らは、長時間にわたる取材に快く応じており、帝国劇場への思いを語ったという。なお、小説は4人の俳優をモデルにするものではなく、あくまで小川氏の発想から生まれる小説となる。
今回の発表にあわせ小川氏と、東宝株式会社代表取締役社長・松岡宏泰氏よりメッセージが寄せられた。以下、全文。
●小川洋子氏
2021年、帝国劇場を舞台にした短編『ダブルフォルトの予言』(『掌に眠る舞台』収録/集英社)を書いた時、初めて帝劇を取材させていただきました。そこで、劇場が持つ底知れない神秘に触れ、物語の泉を見つけたような気持ちになり、いつかもっとじっくりこの題材に取り組んでみたい、という夢を描きました。今回、帝劇の建て替えのタイミングで、夢がかなえられ、大変光栄に思っています。
とにかく、舞台を支えるあらゆる分野の方々が、皆高いプロ意識を持ち、作品の成功のため、努力されているお姿に感銘を受けました。更には、長い歴史の中、これまで帝劇に関わってこられた方々の力が、あちらこちらにみなぎっているのを感じました。
劇場は死者と生者、役者と観客が出会い、一つの世界をひととき旅する場所です。そのかけがえのなさを、小説によって描き出せたらと願っています。
小川洋子
●東宝株式会社代表取締役社長・松岡宏泰氏
日本を代表する小説家である小川洋子さんに、帝国劇場をテーマにした小説を書いていただけることを東宝グループ一同、大変光栄に思っております。
小川さんは、帝国劇場でお客さまに感動を届けてこられた俳優やスタッフの皆さん、そして、劇場の表裏で舞台を支えておられる、ポスターにクレジットのない劇場スタッフの皆さんにも熱心に取材を重ねてこられました。
俳優、スタッフ、お客様が形作られた帝国劇場が、どのように描かれるのか楽しみです。
初回の「ホタルさんへの手紙」を、小川さん、集英社のご厚意により、一足先に拝読しました。
半世紀前の帝国劇場の客席で、温かなお客様とご一緒に、森繁久彌さんの歌声を直に耳にしたような、不思議な感覚が呼び覚まされました。
小川洋子さんが織りなす帝国劇場の世界を、読者の皆様にも存分にお楽しみいただければ幸いです。