声優で歌手・内田彩が2月23日、東京・Zepp DiverCity(TOKYO)にて東名阪ツアー『AYA UCHIDA Complete TOUR ~marble~ にぎやかな10周年』東京公演を開催した。
以下、公式レポート部分。
本ツアーは、内田が昨年11月12日、アーティストデビュー10周年を迎えたことを記念したもので、大阪、名古屋、東京(昼夜2公演)の順に開催。そのうち奇数回を“side A”、偶数回を“side B”と銘打ち、両公演あわせて78曲の持ち曲すべてをバンドセットで歌唱しきるという大胆な試みとなった。単純に考えてみてもらいたい。いま、内田の楽曲どれかを思い浮かべたとして、それは間違いなく披露されている。“セトリ落ち”が1曲もないとは、異常なことだ。
遡ること2016年8月、東京・日本武道館にて『AYA UCHIDA Complete LIVE ?COLORS?』が開催され、当時の全34曲を歌いきった実績こそあるとはいえ、東京公演での曲数は単純に2倍以上。パフォーマンス時間も必然的に長くなる。が、終演後も“まるで元気”を超えて、もはや普通に元気だった内田。side A/side Bあわせて4時間を超えるステージで、無尽蔵なスタミナと、自身の楽曲への愛情を大いに披露してくれた。
なお両公演の模様は3月16日まで、ニコニコ生放送にてタイムシフト視聴(有料)が可能。読者各位にもぜひご覧いただきたいため、本稿ではあくまで見どころの一部を絞りに絞って紹介させてもらいたい。
この日のスタートを飾ったのは、デビューアルバム表題曲「アップルミント」。まずは肩鳴らしとあってか、原曲に忠実な形で歌い進めていくが、いつだって会場の誰よりライブの場ではしゃいでしまう内田。よい意味で、ここからの歌がどう変化していくかを楽しみにさせられる。
続いて、アルバムと同じ曲順で「Breezin’」に。かつては歌と向き合い、その主人公の演じるように歌ってきたわけだが、それがいまでは内田自身が“歌そのもの”にすらなっている気がする。この曲でいえば、キュートやピュアが服を着て目の前に現れ、目一杯に弾けているような感覚。それでいて、曲中の〈S・U・K〉のアルファベットを全身で真似る際、客席から見ると相変わらず“K”の文字が左右逆だったり、曲中に“にゃにゃにゃー”とふにゃふにゃして見せる姿こそ、This is 内田彩。これだけでもタイムシフト視聴する価値がある。
3曲目「キックとパンチどっちがいい?」からは、公演名にある“marble”の意味が本領発揮。同曲をワンコーラス歌い終えると、ドラムが本来は叩くはずの部分ですっと音を抜く。かと思えば、少しズレたタイミングで譜面にないフレーズを叩き始めると、ステージを包む色が一瞬で紫からオレンジに。まるで“ワープ”のような感覚で、刹那エモーショナルな「オレンジ」の歌い出しにジャンプ。しばらく歌って、今度は「Pale Blue」Dメロに着陸。“大人の少し手前”な歌声に切り替えるのも見事だし、そこからも「Bright way」間奏など、1曲ごとにAメロ、Bメロ、サビに間奏と異なる部分に繋がるメドレーは、もはや曲芸に近い。
そのままライブでは久しぶりの披露となった「絶望アンバランス」などを経て、最後は「ONE WAY」フルコーラスで締めたところで、最初の“marble”が完成。本公演のセットリストは、side Aを『アップルミント』、side Bを『Blooming!』と、内田の音楽活動初期を地固めしたアルバム2枚に、どんな曲を繋いだら新たな見え方=marbleができるのかを考えて構成したとのこと。曲の転調などを駆使し、あたかも原曲がそうだったかのように複数曲を繋げるアレンジ力に脱帽をさせられると同時に、この“marble”がブロックごとに様々な色を持つ集合体とも捉えられる点で、3rdアルバムのモチーフとなったアイスクリームのようだとも感じられた。
ライブ中盤以降の流れは、ごくわずかな紹介に留めておこう。「泣きべそパンダはどこへ行った」で、おなじみのパペットを装着すると、次曲「Party Hour Surprise!」でもまさかの小パンダ続投。曲中の〈一緒だよね Everybody smiley〉も、普段以上に“にぎやかな”届き方になる。
歌詞の話から広げるならば「Merry Go」「So Happy」の繋ぎ方もぜひ確認してほしい。「Merry Go」には〈幸せの反対も 回せば幸せに姿を変える/悲しみの背中には 喜びの翼が生えてるの〉と歌う箇所があるのだが、ワンコーラスを披露した後に「So Happy」落ちサビへとフェード。ここではなんと〈なんだか HAPPY for everybody 翼が生えたように〉と、前曲を回収するようなフレーズが待っていたのだ。
これが“幸せの反対を回す”ということ。今回は膨大な曲数により、あえなくショートバージョンで披露された曲もあるなか、それが逆に複数曲をまたぐフレーズが、フルコーラスよりも近い距離で並ぶ楽しさに繋がっていた。こうして新たな解釈を育んでくれるのも今回ならでは。ここで触れたような粋な演出はほかにも随所にあるため、やはりタイムシフトで確認を。
ファン待望の「ピンク・マゼンダ」も、全曲ライブなのだからもちろん披露される。かつてはアルバム曲ながら、この10年間で内田とファンの愛の結晶へと立ち位置を変えた楽曲。今回は、キーボードがグロッケンに近い音色で随所にて鳴らされるなど、これまでとひと味違う雰囲気を醸し出していたことに加えて、それが1曲を通して祝福のような柔らかな響きを帯びるのにひと役を買っていたと記しておきたい。
「Blooming!」から始まったside Bは、劣等感を頑張る理由に昇華する「スニーカーフューチャーガール」や、この日は白い自転車のハンドルを“エア”で握った「いざゆけ! ペガサス号」など、アルバム『Blooming!』収録曲で序盤を固める形に。「Go! My Cruising!」の歌い終わりから、クラップで自然に繋げての「Holiday」も見事な流れだった。この日何回、いや何十回目となるアレンジの妙が光る。
ライブ中盤のmarbleは、夜公演ということもあってか、情緒たっぷりな楽曲が並ぶ。間奏のコーラスワークをオンマイクで歌唱するレアな演出も見られた「Daydream」で神聖な空気に包まれつつ、この後のMCにて、かつて会場近くにあったお台場のランドマーク=観覧車を思い出し、10年間の時間の長さに感傷的に浸った「KANRANSHA」から「Close to you」まで、穏やかで心地よいコーラスに酔いしれる時間が続いた。途中こそ「Inferior Mirage」など寒色系な曲を挟みながらも、じんわりと湿度を感じる楽曲選びに心を動かされる。
先ほどの観覧車然り、内田にとってこの日の会場は特別に想い入れのある場所だという。というのも、約10年半前に同会場で開催されたイベント(@JAM 2014)にて、アーティストデビューを発表。「アップルミント」を初歌唱したのも、そのステージだ。また、前述の日本武道館ライブ後、1stシングル『SUMILE SMILE』リリース時、ちょうど会場外のフェスティバル広場大階段でイベントを実施した思い出もあるという。そんなMCを経て、“凱旋”の意味合いを込めての「SUMILE SMILE」歌唱。あの頃に咲いた小さな笑顔が、何倍にも大きく成長して帰ってきた。
アンコールでは、比較的に最近の曲ながら、すでにアンセムとして溶け込んだ「まるで元気」で、踊って元気を補充する内田の姿に癒されたり、そんな彼女ですら昼夜公演とも途中でバテてしまったスパルタ曲「ヘルプ!!」で、“もはや一種のトレーニングだな”と思わされたり。特に後者は、ファンが長年にわたりしつこいくらいに尋ねてきた「お水おいしい?」が、ついに歌詞、さらにはグッズ販売のボトルにまで登場。早くもフロアバンガーとしての才能を発揮していた。
また、現在放送中のTVアニメ『戦隊レッド 異世界で冒険者になる』エンディングテーマ「Explosive Heart」は、原曲に忠実に。今後、内田の味付けが加わりますますキュートさを備える少し先の展開にも期待をさせられたし、公演を締めくくる今回のテーマ曲「にぎやかな心たち」には、この10年間を総括するメッセージを実感させられたとも簡単に付け加えておこう。最後の曲くらいは、ネタバレなしで読者にも観てもらいたい。
なお本公演では、来る5月5日に地元である群馬・高崎市文化会館にて、自身初の対バン『AYA UCHIDA with GUNMACHAN 2MAN LIVE』を開催することを発表。当日が子どもの日ということもあり、初の親子席が設けられるほか、所属先のキッズレーベル<コロムビアキッズ>より、カバー曲「ジャンボリミッキー!」がリリースされ、ライブ当日にも歌唱することが明かされた。さらに9月15日には、アーティストデビュー10周年イヤーを締めくくる集大成ライブも。同公演については、続報をお待ちいただきたい。
内田自身が過去のインタビューなどで言及してきた通り、曲数の豊富さからどうしてもスポットの当たりにくい曲を、なんらかテーマ性をもって披露したいという願いがようやく叶った今回のライブ。加えて、曲同士がこれまで以上に結びつく新たな出会いの場という意味もあったと思われる。また数十曲をノンストップで歌いきる内田の姿には、喉の不調で歌いたくても歌えない時期、コロナ禍での分断を経て、“もう大丈夫”だとここから先の未来を確信させてくれた。
まさに「ヘルプ!!」で表現されたように困難やトラブルがあっても、客席のファンも巻き込んでチームワークで乗り越えるのがAYA UCHIDAのスタイル。side Aの本編最後に歌った「Say Goodbye, Say Hello」にある通り、内田彩は〈わたしがわたしをアップデート〉しながら、これから先も我々を“にぎやかな場所”へと連れて行ってくれる。
TEXT : 一条皓太
■ニコ生アーカイブチケット販売中!
AYA UCHIDA Complete TOUR ~marble~ にぎやかな10周年 side A
2025年2月23日(日)東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
https://live.nicovideo.jp/watch/lv346877144
AYA UCHIDA Complete TOUR ~marble~ にぎやかな10周年 side B
2025年2月23日(日)東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
https://live.nicovideo.jp/watch/lv346877181