俳優・梅津瑞樹が4月16日に東京・シアターサンモールでSOLO Performance ENGEKI『MAGENTA』(演出:毛利亘宏)を開幕した。
2021年、2023年とSOLO Performance ENGEKIプロジェクトとして“ひとり芝居”を継続的に上演してきた梅津3度目のひとり芝居。脚本は舞台「花郎~ファラン~」、ミュージカル「東京リベンジャーズ」等を手掛ける赤澤ムック氏、演出はミュージカル『薄桜鬼』、「ライドカメンズ The STAGE」等を手掛ける劇団「少年社中」の毛利亘宏が務める。
以下、公式レポート部分。
本作は、俳優・梅津瑞樹による“ひとり芝居”プロジェクト。2021年の「HAPPY END」ではひとりの男の人生を、2023年の「HAPPY WEDDING」では結婚式に参列した様々な客をひとりで演じてきた梅津にとって、3度目のひとり芝居となる。自らの限界点を更新するようにひとり舞台に立ち続けた梅津が、次はどんな顔を見せたのか。その一端をレポートする。
過去最高の難易度で送る三度目の“ひとり芝居”
舞台上に広がるのは、さびれた廃アトリエ。埃の積もった塑像とキャンバスが転がっている。そこに、梅津演じる男がやってきた。男は何か目的があるらしい。だが、空き家と思っていたはずの廃アトリエには初老の女がいた。画家と称する女は、一心不乱に男の肖像画を描き始める。しぶしぶながらもモデルを引き受けた男は、沈黙を持て余したように身の上話を始める。それは、かつて男が中学生のときに、学校に爆弾が仕掛けられた話だった――。
本作の特徴は、梅津演じる男と謎の女による会話劇だが、舞台上にいるのは梅津だけということ。女の台詞は観客にはわからない。女は男に向かって何と言い、どんな顔をしたのか。すべて梅津のリアクションから読み取らなければいけない。過去2作と比べて、最も余白の大きい作品と言えるだろう。
だからこそ、一瞬たりとも目が離せない。梅津の台詞はもちろん、目線の先にあるものを観客も追い、梅津の表情から想像を膨らませる。今やエンタメ作品において考察は重要な娯楽要素だが、考察のしがいは十分。観客同士で感想戦を繰り広げても楽しめるし、2度3度観ることで、まるでシナプスがつながるように、欠けていたピースが埋まっていく面白さがある。
見どころは、もちろん梅津の演技だ。自嘲と失望にまみれた男の孤独を、梅津が生々しく演じている。怒りや憎しみを高い熱量で放出するシーンもすさまじい迫力だが、より釘付けになるのはむしろ静かなシーンだ。台詞の浸透圧が強いからこそ、かすかに声を漏らすだけで男の苦悩が染み込んでくる。梅津自身の放つ緊張感が、客席を支配する。ひとりの役者に身も心も取り込まれていくような快感も、本作の醍醐味と言えるだろう。
ひとり芝居とは、自分と向き合うこと。ただ己と向き合い続けることで生まれる表現がある。上演時間は、約1時間45分。これだけの長い間、たったひとりの人間の内面と、たったひとりの役者の芝居を見つめ続けられる贅沢は、ひとり芝居ならでは。そして、その時間を共にすることで、観客もまた自らと向き合うことになる。まるで幻のような時間の中で男は何を見つけたか。その答えを心の中で反芻したくなるような作品だ。
SOLO Performance ENGEKI「MAGENTA」は、4月27日(日)まで東京・シアターサンモールにて上演。その後、5月10日(土)・11日(日)に愛知・メニコン シアターAoiにて、5月17日(土)・18日(日)に福岡・西鉄ホールにて上演。そして、5月24日(土)・25日(日)に大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにてフィナーレを迎える。
梅津さんがどれだけすごい役者かを見ていただきたい
なお、ゲネプロ前の囲み会見の模様は以下の通り。
――初日を迎えた心境をお聞かせください。
梅津:朝からもう何をするにつけても頭の中でずっと念仏のように台詞がぐるぐると回っておりまして。過去2回、このプロジェクトでひとり芝居をやらせていただいてるんですが、今作は殊更に台詞の密度みたいなものがみちみちで、一晩置いたチーズケーキみたいな感じなんですよ(笑)。だからちょっと大変でしたが、その分、すごく重厚感のある作品になっていると思うので、早くお届けしたいなというのが今の心境です。
毛利:ついにこの「MAGENTA」が全貌を現すときがやってきました。人知れず、こそこそとすごいものをつくり続けたという実感がございます。早くこれをみなさんに見ていただきたい。梅津さんという俳優がどれだけすごい役者なのかをみなさんに見ていただきたいという気持ちで高揚しております。
――本作の見どころを教えてください。
毛利:ひとり芝居という形ではあるんですけど、純然たる会話劇になっております。これは一体どういうことなのかというのを早く見ていただきたいです。本当に難しいチャレンジに対して、ひとりの天才俳優がこれでもかと向かっていく姿を稽古場で見るのは、非常に美しく楽しい時間でした。演劇というものはこんなに可能性のあるものなんだということを、みなさんの目に焼きつけていただければと思っております。
梅津:どの作品でも言ってるんですけど、今回は殊更に全部が見どころです。なぜなら僕しか出てこないから(笑)。全部が見どころではないと困るなという感じなんですが、一瞬たりとも隙を見せないということを念頭に置いてやっておりますので、穴を探したければどうぞ…と(笑)。こっちはちゃんとやっておりますということだけお伝えしておきます。
――赤澤ムックさんの脚本について感想をお聞かせください。
毛利:ずっとご一緒したいと思っていた同年代の盟友と言える存在でした。脚本をいただいたときも、本当にチャレンジングなことにギリギリのバランスで攻めていただいたなと。人の情念や、人間というものをよく書けている本だと思いました。この脚本に挑ませてもらえたのは本当に幸せなことだと思っております。
梅津:今、情念という言葉がありましたけれども、まさしく本当にそういったパッションだったり、ともすればすごくドロドロとしていそうな、粘り気のあるものを脚本をはじめて読んだ時、ひどく感じまして。この癖をうまく芝居に落とし込むにはどうすればいいんだろうと最初はちょっと面食らった気がしましたが、どう形になったのかはぜひ見ていただきたいです。
毛利:台本を売ってるという話を伺いしまして。ぜひ観劇の後に台本を買って読んでいただけると2倍楽しいお芝居なのではないかと思っております(笑)。
――SOLO Performance ENGEKI初のツアー公演について楽しみにしていることを教えてください。
毛利:やっぱり最終地点がシアター・ドラマシティという劇場でこのシアターサンモールで上演したお芝居をまんまやるというのが楽しみですね。最初からドラマシティを念頭に置いてつくろうというコンセプトで始めたので、この舞台がドラマシティでどう見えるのかは、ツアーの楽しみ中の楽しみでございます。
梅津:日々自分の中に滞留しているものが変わっていく感覚が、特に今作は強いというか。それによって受ける芝居の変化みたいなものをすごく感じられる作品です。なので、1ヶ月というツアーの中でどう自分が変化していくのかが楽しみですね。
――改めてひとり芝居に思うことをお聞かせください。
梅津:久しぶりにひとり芝居をやって、寂しいかなと思っていたんですが、全然寂しくなかったというか(笑)。毛利さんもいらっしゃいましたし、自分としてもすごく手応えがあるんですよね。どちらかと言うと、充実感が今先行していて。ひとり芝居だから殊更どうだったというより、いい作品ができたなという思いがすごく強いです。
過去2作とはまったく違う形になっていますが、どんな形でもひとりで芝居を成立させられるのが、このプロジェクトの面白さ。今後続けていくにあたって、さらに違う方向性に広げていくのか、それともひとつのものの深みをさらに増して研鑽を積んでいく形になるのかはわからないですけど、また今後がすごく楽しみになりました。
――最後に観客に向けてのメッセージをお願いします。
梅津:ひとり芝居と申しましたけれども、稽古場では数々の人に支えられながら、こそこそとやっていたものがようやくお披露目する日となりました。この1ヶ月間、ろくにSNSも更新せずに何をしていたのかが形になっておりますので、しかと刮目していただきたいですし、長い公演となりますので、もしお時間が許されるようであれば、ぜひどこかの劇場でお会いできることを楽しみにしております。
<ストーリー>
突然の豪雨―。
すべてを諦めた男は、廃アトリエを訪れる。
誰もいないはずのアトリエに現れた女は幽霊だった。
男は、彼女が幽霊であると気付かぬまま、立ち退きを迫る。
男は「強盗」を名乗り
女は「画家」と名乗った。
男が胸に秘めた「計画」とは。
年代を変えゆく幽霊とともに、明かされていく男の秘密。
『マゼンタ』
その色は、消せない記憶の色。
これは、ひとりの男が体験した、
忘れられない不思議な物語。