落語家・林家木久扇(81)が23日、東京・シネパトス銀座で映画『家へ帰ろう』(監督・脚本:パブロ・ソラルス/配給:彩プロ)トークイベントに登場した。
88歳の仕立屋・アブラハムが70年前にホロコーストから命を救ってくれた親友に自分が仕立てた『最後のスーツ』を渡すために、アルゼンチンからポーランドへ向けて旅をし、人と温かい交流を繰り返していく感動のロードムービー。ソラルス監督自身が祖父の家で体験したことに着想を得て、重いテーマをユーモアを交えて軽やかに描いている。木久扇は本作にメッセージを寄せたことから、ゲストとなった。
『笑点』でも、おなじみの黄色い和装で第一声から『笑点』をアピールして登場した木久扇。
本作をとても気に入っているという木久扇は、主人公が『足が痛い』という設定に強く共感したそうで、「役者さんが知らない人ばかりなのでドキュメントを観ているようなドラマがありまして。主人公は憲兵に殴られてということでしたけど、私は結構大きな病気をしていまして、がんが2回、腸閉塞で死にかかったこともあります。実は東京大空襲を体験しておりまして、私の生家は日本橋の雑貨問屋でございまして、長男坊でございましたから、疎開をしていないかったんですね。戦火のなかで爆撃にも遭いまして私の家は昭和20年の3月10日に焼けてしまいましたけど、毎晩おばあちゃんの手を引いて近くの小学校の防空壕におばあちゃんを走らせていたんです。でも、年寄りでございますからね。おばあちゃんは私のことをお兄ちゃんと呼んでいたのですが、『お兄ちゃん、脚が痛いよ。脚が痛いよ』と走る度に言ってましたから、それが映画の中の台詞にもあったのでとてもびっくりしましてね。主人公にすごく共感を覚えました」と、記憶を呼び起こされたという。
映画で胸が詰まったシーンもあったそうで、「主人公の妹さんが話がうまい少女なんですね。星の話を訳したりして、お兄ちゃんも誇らしげに手を叩いてました。その子がどうなったかというのは映像では見せてないですけど、『あの子は積み重なるようにトラックに詰め込まれて収容所に連れて行かれちゃった』という台詞だけのシーンがあるんです。あんな素晴らしい女の子がと思って、そこのところが私はとっても悔しかったですね」と、声を落とした。
ほかにも、『笑点』の大喜利で気をつけていることへ、「暗いニュースとか嫌なニュースを一切言わないということでございまして、私が喉頭がんになったときも『喉頭がんになってビックリしました。頭の後ろから殴られた気持ちになりました。後頭“がん”』と言ったんですけど、TVでは使われませんで、病気のことも言わないと」と、裏話を。
さらに、今年は『笑点』メンバーだった桂歌丸さん(享年81)も亡くなった。木久扇はそのことにも触れ、「今年歌丸師匠が亡くなったんですけど、いろんな取材が来ました。でも、一切お答えしなくて……。悲しいとか、別れがつらいとか、惜しい方を亡くしたとか、普通の気持ちをしゃべるのが嫌なんですよね。楽しいこともいっぱいありましたから、それはそれで歌丸さんの命日に集まったときにお話しようかなって。一切悲しいと普段は言っていないんです、本当はとっても寂しいです。50何年付き合ったんですから」と、言葉では言い表せない心情があることを垣間見せていた。
そんなしんみりとした一幕もあったが、フォトセッションの際には、努めて笑顔を振りまく姿を見せていた。
映画『家へ帰ろう』はシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー!