映画『ポンチョに夜明けの風はらませて』(監督:廣原暁/配給:ショウゲート)トークイベントが12日、東京・新宿シネマカリテで開かれ廣原暁監督、黒沢清監督が登壇した。
将来に希望を見出せないまま、何となく日々を過ごしていた高校生の又八(太賀)、ジン(中村蒼)、ジャンボ(矢本悠馬)の3人が“ありふれた日常から抜け出したい”と、ジャンボの父親の愛車セルシオで海へ向かって旅立つ。途中で凶暴なグラビアアイドルや風俗嬢まで加わって、その旅路がハチャメチャなものになるのだが……という、青春ロードムービー。
黒沢監督は東京藝大院の際に廣原監督から講義を受けるという縁あってゲストに。今回鑑賞は2度目だそうで、「1回目はバカなことを最後までやり通す典型的な青春映画だと思ったけれど、きょうは『青春映画でもないな』と思いました。物語は『青春映画風』なんですが、最初からこの人たちに帰る場所はない。彼らは社会からドロップアウトして行く人たち。そういう一種のハツラツとした青春というより、ニヒリスティックな不吉な気配のする映画だな」と、感想を。
黒沢監督がそう思った理由へ、キャスティングもその一因だそうで、「誰1人高校生いないもん。みんな高校生を越えた人たちだから、不吉な予感がする。全員が学生を卒業していて、背負ってるものが社会そのもの。3人プラス1人のいい歳した大人が高校生の気分に戻って、社会を背にしてどこかに突っ走って行く。痛ましい、悲壮な、だからこそただならぬ緊張感がある」と、解説。
このキャスティングについて、廣原監督は、「最初からリアルな高校生は想定していなかったんです。リアルだと自然な映画になってしまうというか、初めから自然さには興味がなく、最後のエキストラも含めて、リアルな高校生を出さない形で進めました」と、やはり演出意図があったのだとか。
しかも、廣原監督、序盤は名作映画『トラック野郎』を意識して作っていたそうだが、撮影のときに相米慎二監督の作品のような方向になってきたそうで、「狙ってはいなかったのですが、撮影の時に薄々そうなる気はしていました」と、白状。黒沢監督も、「相米監督はティーンネイジャーを使ってめちゃくちゃやってたんですが、前半の東映タッチから相米タッチになる」と、あいづちを打つことも。
キャストの演技の話となると、廣原監督は、「太賀くんのお芝居はすごく明確。セリフも聞き取りやすくて気持ちいい。僕の勝手なイメージで、太賀くんって時代からずれてるものを持ってるような気がして、そんな良さを出せたらいいなってキャスティングしました。確か太賀くんに『トラック野郎』を見てくれと言ったような気がします」と、指示があったそうで、黒沢監督は、「ムチャクチャな指示ですね。確信犯で『トラック野郎』なんですね」と、思わず笑みも浮かんだ。
一方、佐津川愛美や阿部純子といった女優へ、「本当は、女性陣が一番不安でした」と漏らす廣原監督。「男性陣はいろいろ説明できるし見せ場もあるけど、女性は『なんでここで喧嘩になるんですか』って聞かれても説明できるか不安だったんです。でも、2人とも前向きに捉えてくれました」とのことだった。
ほかにも、フロントガラスが割れた自動車の話題になると、廣原監督は、「簡単に割れないんですよね。ヒビは入るけど、気持ちよくパーンと行かない。そのおかげで何回も殴れましたが。最後はスタッフが鉄パイプで叩きまくってました」と、裏話を披露していた。
最後に、本作へ黒沢監督は、「最初に申し上げましたが、単なる青春映画のようでいて、いろいろに見える不思議な作品。1人1人感想が違うと思います。どんな映画なのか、言葉で伝えるのは難しいですが、2度3度観て、いろいろと話し合って頂けると。観れば観るほど味わいが出てくる深い作品です」とアピールし、廣原監督も「俳優が魅力的に映っていると思ってます。いろいろな方に紹介して頂けたら嬉しいです」と、メッセージを寄せていた。
映画『ポンチョに夜明けの風はらませて』は10月28日新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー!
※記事内画像は(C)2017「ポンチョに夜明けの風はらませて」製作委員会