俳優・菊地凛子、竹原ピストル、浜野謙太、オダギリジョーが29日、東京・テアトル新宿で映画『658km、陽子の旅』(監督:熊切和嘉/配給:カルチュア・パブリッシャーズ)公開記念舞台あいさつを熊切監督とともに開いた。
東京から青森県弘前市の実家まで訃報を受けてヒッチハイクをすることになった主人公・陽子(菊地)が、その旅路のなかで出会う人々とのトラブルや温かい交流を通じ、後悔を抱え孤立した心を癒していくという一夜の物語となっている。第25回上海国際映画祭において最優秀作品賞、最優秀脚本賞、菊地が最優秀女優賞を受賞している。
白いドレス姿で登場した菊地。本作で初の邦画単独初主演を飾る菊地は、熊切監督とのタッグが実に22年ぶりだそう。「熊切監督からは映画ってこんな面白いんだよとか、みんなで楽しむことができるんだよと教えてくれたのが熊切監督なんです。もう自分は呼んで頂けないのかなと思っていたのですが、諦めずに役者をやって20年、どれくらい作品やれるかなと漠然とした不安を抱えているときに自分を拾ってくれた監督が一緒にやろうと言ってくださったのが嬉しかったです。自分の20年、きちんと作品をやれたからこそ、こうして声をかけてくださったんだなって思います。そうしてこの場にたどり着けたのが嬉しいです」と、晴れやかな笑み。
陽子役を演じて、「陽子って特別な人間じゃないんです。あることをきかっけに、前も後見ることができなくなってしまって、荒療治的に外に連れ出され、少しずつ自分を取り戻していく彼女の再生を描かれています。自分も映画に救われてきましたし、いろんなことがあっても……」と、感極まったのか涙声に。一度涙をぬぐうと、「スイッチが入ると情緒がおかしい人みたいになっちゃって」と、苦笑いしながら話を続ける。
オダギリジョーはそんな菊地を見ながら、「そういう情緒不安定な女優さんって好きです。その感受性に羨ましさを感じるんです」と、称える。そんなオダギリは陽子の父・工藤昭政役を演じているが、菊地は、「年が近いので“えー!”っと思っていたんです。けど赤い帽子をかぶって、目の前にやってきたときにお父さんだと思って」」と、驚いたそう。
続けて菊地は「独特の空気をまとわせていのでオダギリさんの後にしゃべると、私も穏やかに喋ろうとしてしまうので、この空気に呑まれないように演じようと思って」と気をつけるとともに、「陽子が向かっていく人なので、オダギリさんで良かったです。父親として居てくださったときには、そこからあふれ出る気持ちがたくさんありました。本当にありがとうございます」と、お礼も。
“独特の空気”と菊地から言われたオダギリだが、その後の『人生の中で間に合いそうで間に合わなかった、なんとか間に合ったエピソード』トークでは、前日にドーナツをもらい翌朝食べようと楽しみに思っていたところ、深夜3時にあまり頭が働いていない状態でトイレにと起きたときに食べてしまい、また寝て午前6時に起きたときに、ドーナツがないと焦ったと明かし「だいぶ生き急いでいたんだなって」と、独特の話を繰り出して、菊地の言っていたことを裏付けていた。
一方、菊地は上海国際映画祭で本作が3部門受賞したものの、上海の現地で「何かを受賞すると思ってなかった」ため授賞式後の飛行機を予約していたそうだが、3部門受賞のため、同イベントのアフターパーティーなどにも出席できずだったそうで、トロフィーを手に持ったまま空港へ走っていったり、トイレで着替えたりと裏はバタバタだったといい、「でも結局、飛行機が1時間くらい遅れたんです。でしたので、空港のバーでビールで乾杯しました。いいビールでした」と、楽しげに笑っていた。
映画『658km、陽子の旅』はユーロスペース、テアトル新宿ほか全国順次公開中!