俳優・宮沢りえ、磯村勇斗、二階堂ふみ、オダギリジョーが14日、東京・新宿バルト9で映画『月』（監督：石井裕也／配給：スターサンズ）公開記念舞台あいさつを石井監督とともに開いた。
2017年に作家・辺見庸氏が発表した実際の障害者殺傷事件を題材に描かれた作品。深い森の奥にある重度障害者施設を舞台に、新たにその場所で働くこととなった元・有名作家の堂島洋子（宮沢）。洋子はほかの職員たちによる入所者への心ない扱いや暴力を前に、訴えるが届くことはない。そんな世の理不尽に誰よりも憤っていた、さとくん（磯村）は彼の中で増幅する正義感や使命感が、やがて怒りを伴う形で表出する……。
上映後に登壇した宮沢は「みなさまの余韻を打ち消すようで、申し訳ない気持ちもありますが、とても貴重な時間の中、この作品を選んでくださって本当にありがとうございます」と、作品にあわせて静かなトーンで切り出す。石井監督は本作を世に出すことへ、「すごく怖かったということが1番あります。比喩でも誇張でもなんでもなく人類全体の問題と理解したので逃げられないと思いました」と、真摯に。真面目に語っていく4人に対してオダギリは、「違う方向のことを言いたいとと思います」というと満席の客席を見回し、「これだけの数の囲まれているのを見ていると、ジャニーズの会見を見ているみたいで、指名NGなしでいきたいと思います」と、話して会場の空気を少し緩ませた。
本作への出演を決断した理由について1人1人に問われる。
宮沢は、「企画・プロデュースされていた河村（光庸）さんが撮影直前（2022年6月11日）に亡くなられています。最初にお会いしたおときに、この映画についての熱意を伺って、私自身、殺伐とした世の中で、地球上にいろんなことが起きていて、そこで生きていくために、どうしても私自身保身してしまう自分に対してもどかしさがあったりしたんです。そのなかでも、日々の幸せを感じたり、でも、もどかしくなったりという自分の人生があって……。河村さんのお話を聞いたときに、もどかしさを、この作品を通して乗り越えたいって言う気持ちが凄く強く湧きました。内容的には賛否両論ある作品になるだろうとは思いました。けど、ここから逃げたくないという気持ちが強く湧いたので参加させて頂きました」と、自身の心情を。
磯村は「企画書を頂いて、河村プロデューサーからの言葉があって。直感的には参加しないとダメだなという思いがあるのと同時に、覚悟を持つまで時間がかかりました。監督と慎重に話を決めていきました」と、迷いも交えて話したり、二階堂は、「私は事件が起こってしまった当日のことを、すごく覚えていて、企画書を頂いたときに社会的にもそれを、う受けた我々も、消化できていないものを作品にすることは、やっていいのかということを考えさせられました。当事者からとして受け止めないといけないのかなと感じて、その事件を知る当事者としてこの社会に生きる当事者としてこの作品に参加してと考えたいなと思いました」。
オダギリは「映画っていろいろなタイプのものが世の中にはあって。今回の作品のように重いものを受け取って帰る映画も必要だと感じています。世に問うというか、みんなでしっかり一回止まって考えようよという映画の方が僕はどちらかというと興味があって。そういうものに参加したいという思いはあります。石井さんがこれに向き合って作ろうという挑戦があるなら、そこに加わらないわけには行かないという気持ちでした」と、決意を語った。
そんな作品を自身で観てみて、宮沢は「自分の作品を観ると正直こうすればよかったなと思うことが多いんです。でも、監督がこの脚本を書き上げるまでの時間で、本当に真剣に向き合って書かれた台本は最初に読んだだけでスッと理解できるものだけではなくて。そこでお話を伺ったら、情緒をむき出して、かき乱して演じてほしいと言われたことを思い出しました」と、振り返っていた。
そしてオダギリから、「宮沢さんが賛否ある映画になるんじゃないかと言われましたが、きっとそうであろうし、賛であっても、否であっても、それぞれが感じることが正しくて正解だと思います。それを話し合うことがきっかけになると思います」というと、宮沢は「きょうの舞台あいさつは、ドキドキしてずっと手に汗をかいていました。自分が話したいと思っていたことが、すべて話せたとは思いませんが、日々生きていく中で、見たくなもの、聞きたくないこと、触れたくないことそんな箱が世の中にはごろごろあって、その蓋を開けることは勇気とエネルギーがいると思います。でも、蓋を開けて向き合ったときに、ポジティブではないかもしれないけれど、そういうことから考えるきっ掛け、話し合うきっかけになるような映画であってほしいです。みなさんの記憶にベッタリと、こびりつく作品として広がってほしいと思います」と、メッセージを寄せていた。
映画『月』は公開中。
