俳優・東出昌大、音楽ユニット『MOROHA』のアコースティックギター担当・UKとMC担当のアフロが16日、東京・渋谷のシネクイントでドキュメンタリー映画『WILL』(監督:エリザベス宮地/配給:スペースシャワーネットワーク)初日舞台あいさつに宮地監督ととも登場した。
東出の狩猟生活を追ったドキュメンタリー作品。彼が狩猟をして生命を頂き、生きながらえる生命がなんなのかに迫っていく。なお本作は東出が、俳優・唐田えりかとの不倫スキャンダルが2020年1月に発覚し、その後、杏と離婚しているが、本作はそのスキャンダル渦中当時から始まったという作品にもなっている。
会場は満員の観客の中、上映前に登場した東出は「僕はこのお話を頂くまで狩猟というものをあまり外に出していませんでした。撮りたいと言って頂いて、僕の真実の1つかなと思ってOKしたのが、きょうこうしてお披露目できる日が来ました。幸せとかそういうことは分からなくて、不可思議な気持ちがしています。楽しんで頂けれたらと思うのと、残酷なところもあるのでみなさん目を覆いながら観て頂ければ」と、切り出した。
宮地監督、『MOROHA』の2人ともから“でっくん”とあだ名で呼ばれながらそれぞれとの出会いを和気あいあいにトークを進めていく。とくに『MOROHA』とは以前から話をしたかったとといい、その魅力へ東出は「一言で代弁したくないくらい。いろいろな考えをくれるきっかけの音楽をくれるんです」とも。
一方、『MOROHA』としては、本作はもともとは東出と半々で出演する映画という形で企画が始まったそうだが、出演シーンが減っているのだとか。これについて、アフロが「完成近くまで何も言われなくて、観てみたら全然俺が出てこないなって」と、思わず漏らしたそうだが、それでも「でも作品が良くて。それって監督が面白くなると思った方向に舵切ったってことだし」と、監督のセンスを称えつつ「俺は人がいいからバランスをとろうとしたと思う」と、自身のこともアピール。
宮地監督から「でっくんが『僕はこの作品が公開されても観たくないし、観てほしいとも言えない』と言っていました」という。その発言の真意を告げるように、東出がなぜ、狩猟を始めたのかが語られていくことに。「狩猟ってなんだろう?命を食べるってなんだろう?って考え続けていたところを、エリザベスさんが投げかけてくれて。答えが出ないのは、動物は生きていて、毛が生えてて見つけて、撃って、血を抜いて、臓物をとって、皮をはいで、脚をバラしてということをしていて、テーブルの上のスライス状の肉になったときに、そこだけ見た人はこれは肉ですとなる。僕はその工程をやっていると、どこから肉って呼んでいいのか、どこからが獣で、いつ命がなくなって命ってどういうものなんだろうと山でずっと考え続けていたというところで、エリザベスさんが問いかけをしてくれて、2人で考えてましょうといったのが始まりだと思うんです。人間社会は複雑なので、僕が考えている以上のこと以外に取り巻いていることとか状況とか、人間関係が混ざったときになんか混沌とするからそこがこの作品の魅了でもあると思うんです。観終わった後に命って何だろうと考えるきっかけになる映画だったらと思って。だからここだけがオススメですと僕はいえないです」と、気持ちをとうとうと語る。
これにアフロが「なんで観てほしくないという作品の公開をOKにしたの?」と問うと、「映画が好きなんです。これはエリザベス宮地さんから観た東出像なんです。東出のそれ以前を追っているわけでもないし、それ以降を追っているわけでもない、その瞬間なんです。エリザベスさんはこういうところを切り取られるのか、こう思われるのかと、僕に対する愛を感じるんです。映像で人を説明するって、ドキュメンタリーって難しいことだと思うんです。表現されたと思うと『あのときに表現してただろ』って言われるリスクになりかねない。俳優業でも実生活でもリスクになりかねない。でもそういう煩わしさも含めて、人間って真実は1つじゃないんだな、善と悪だけじゃないんだなって。考えるきっかけを僕にいままでくれたのがドキュメンタリー映画という文化だったの。その文化に1つ貢献できる作品だったら、自分のために直接的にならないかもしれないけど、そういうドキュメンタリー映画があってもいいなと思ったので」と、説明をしていた。
ほかにも、本イベントの取材に、東出の狩猟している場所に突撃してきたという女性誌『週刊女性』のカメラマンまでやってきていることが明かされ、アフロが「一発入れようと思わなかったの?」と拳を繰り出すと、東出も同じ行動を取りながら「それはダメだよ」と、笑い飛ばして場内を沸かせることも。
最後に、東出は報道陣の方に向き合い「僕の都合で記者さんとTVカメラに向かってのメッセージです」と切り出すと、「人間社会で一生懸命生きていても、働くのがしんどい、生きていくのがしんどい、明日を迎えたくないって思ってしまう心がキツイ人が、世界にいると思うんです。世界って本当は本当は、もっと動物の生き死にとか残酷なものにあふれていると思うんです。安心・安全で便利な世界を希求しすぎたがゆえに、何か人が呼吸しにくくなったり、忙しくなっていて。そういう心をすり減らしてまで生きているっていう生涯もキツイだろうなって僕は思っています。残酷さやどぎつさにあふれた作品になったんですけど、回り回って、この毒薬、劇薬が誰かの救いになっていたらいいなと思っています」と、メッセージを寄せた。
映画『WILL』は公開中!