10月25日より公開中の劇場アニメ『がんばっていきまっしょい』(監督・脚本:櫻木優平/配給:松竹)スタッフトーク付き上映会が11月14日に新宿ピカデリーで開かれ櫻木優平監督、CGディレクターを務めた川崎司氏、制作プロデューサーの菊池元氏が登壇した。
作家・敷村良子氏が1995年に『坊っちゃん文学賞』大賞を受賞し1998年は田中麗奈主演で実写映画化もされ、2005年にも鈴木杏、錦戸亮主演でドラマ化もされた作品。愛媛・松山市を舞台にボート部に青春をかける女子高生の成長や、ゆらぎをみずみずしく描き出す。
以下、公式レポート部分。
美しい3DCGアニメーションで描かれる本作を作り上げたスタッフ陣としてトークイベントへ登壇した3人は、まずそれぞれの役割について簡単に自己紹介。監督の櫻木は「そうですね、監督をしましたね(笑)」と会場を笑わせつつ、「よく『監督ってなにをするんですか?』と聞かれるんですが、アニメの作品の監督は人によってやることの幅が違っていて、自分は制作の全セクションに関わるような仕事をしていました」とまずは簡単に説明。CGディレクターの川崎は「いわばCG部門の監督のような立場なんですけど、櫻木監督と仕事をすると、そういうCG制作の部分も櫻木さんが色々やられたりするので、自分はどちらかと言うと、制作がうまく進むように現場のワークフローを作っていく現場監督のような立ち位置でした」と、役回りを明かした。そして、制作プロデューサーの菊池は「私は全体のスタッフィングや、スケジュール、予算の管理をしながら、櫻木監督と川崎さんのケツを叩いていく仕事をしていました(笑)」と冗談を飛ばすと、櫻木は「そんな叩かれるような作り方じゃなかったですよ(笑)」と突っ込んで、軽妙なやり取りで会場を和ませた。
本作ではエンドクレジットのあらゆる部門に「櫻木優平」の名前が並んでいると、鑑賞後のファンの間でも話題となり、監督にとどまらず、脚本、絵コンテ、演出、CGルック開発、音響監督、編集なども手掛けるそのマルチタスクぶりも注目される櫻木。これだけ多岐にわたる部門で作品に関わるその裏側について、櫻木は「過去には“ニコニコ動画”で個人作家をしていた経験もあって、全体を創るということはその時から馴染みのあることでした。特にCGはすべての工程が繋がっているので、全体を見ることが必要だと考えたら、結果的にこれだけやらせていただくことになりました」と、自身の経験からくる制作スタイルの秘密を明かした。
通常であればあらゆる分野の専門クリエイターが集まり、一つの作品を構築していくCGアニメーション制作だが、制作の土台となるコンピュータプログラミングでのツール開発まで川崎と共に手がけたという櫻木は「もちろん専門の方がいていただいた方がいい場合もあるんですが、今回は自分たちの手でイメージ通りに作ることで、“かゆいところに手が届く”ツールを開発することができたと思います」と、思いのこもった作品を手掛けるためのこだわりを感じさせるコメント。これには菊池も「基本的にはスクリプトを書いて開発する専用の方がいるので、監督が兼務されることはかなり稀だと思います(笑)」と明かし、会場を驚かせていた。また、本編のほとんどが完成してから約半年間に渡って櫻木が一人で細かい部分の手直しをする期間があったということで、川崎は「その間自分はやることがないのでゲームして待ってました(笑)」と冗談を言って笑わせたが、より良い作品を作り上げるために徹底的にこだわる櫻木のスタイルが窺えるエピソードだった。
他にも音響監督として声優キャストのアフレコにも立ち会った櫻木だが、多忙を極める実力派声優が集まった本作では全員が揃ってアフレコすることが難しく、スケジュール調整には苦労したと明かす菊池は「なんとか録りきれてよかったです」と、振り返りながら安堵の表情を見せた。改めて菊池は「人生でこれだけクレジットされる監督にお会いするのは櫻木監督だけじゃないですかね」と、監督の仕事ぶりを称えた。
アニメーション制作のスタジオとしても、「レイルズ」と「萌」の二つの名前が並び、それぞれのスタジオの強みとしている部分を互いに活かしながら作り上げていくという、これもまた他作品ではなかなか見ることのない制作工程の本作。そんな中でトークは、特に独自のスタイルを持っている櫻木アニメーションの“コンテ”の作業の話題に。「通常であれば紙でコンテを描いた後に、アニメーターがレイアウトを切り直すという作業をして、そして、それをまた自分がチェックしてと工数がかかってしまってたところを、紙のコンテをなくして最初から編集ソフト上に絵を乗せていくという作り方をしています」と、少数精鋭で作り上げていく現場の効率を上げるために独自の制作方法を取っていることを明かす。
そんなコンテ制作過程の例として、この日はスクリーン上に完成する前の制作途中の映像を実際に上映して監督が解説。大まかな場面の画像を背景に実際のセリフのテンポ感で監督が声を入れ込んだだけの「コンテ(サウンド)」の映像。続いて、未完成のキャラクターアニメーションに、仮の声優キャストが声を入れ込んだ「コンテ(レイアウトムービー)」の映像。そして、実際に完成したその場面の映像と順番に披露。普段は決して見ることのできない一つのシーンが完成していく過程を監督自身の解説で見られるという貴重な体験に、ファンにとってはたまらない時間となった。
その他にも、西田亜沙子が担当したキャラクターデザインについてや、本作の一番の見どころと言っても過言ではない、美しい海の描写についてなど、様々な制作の裏話で盛り上がるトークイベント終盤には、櫻木がこの日のために書き下ろしたというスぺシャルイラストもお披露目に! 「最後のレースが終わった後の悦子」を描いたという、逆光の夕日に照らされた悦子の“エモい”イラストを一足先に目にした会場のファンからは「おー!」と喜びのリアクションも起こる中、最後に菊池は「今日語り尽くせなかった、監督が仕込んでいる様々な要素がまだまだあります。是非二度三度観て楽しんでください」と、呼びかけ。
続いて、川崎は「繰り返し見ていただくことで新たな発見があると思います」と、同じく、何度も劇場に足を運んでほしいとアピールした。そして、櫻木は「今回の作品は、キャラクターアニメーションにおけるCGのアイデンティティーを映画という尺でどう表現するかを、ストレートに勝負した作品です。本当に語り切れないほど色々なことをして完成した作品なので、またこのようなお話ができる機会があれば嬉しいです。本日はありがとうございました!」と、満員となった客席に感謝の想いを告げ、大盛り上がりとなったトークショーを締めくくった。
※記事内画像は(C)がんばっていきまっしょい製作委員会