俳優・大泉洋が4日、東京・新宿ピカデリーで映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(監督:前田哲/配給:松竹)講演会を原作者の渡辺一史氏、パラリンピック陸上で日本代表も務めた義足のランナーとして知られる大西瞳選手とともに開いた。
第35回大宅壮一ノンフィクション賞、第25回講談社ノンフィクション賞をダブル受賞した実話を実写映画化。難病の筋ジストロフィー症を患い、体が不自由ながら、障がい者施設を自ら飛び出し、約20年間にわたる自立生活を続け、夢に向かって生き続けた主人公・鹿野靖明(大泉)と、そんな真っすぐな生き方をする彼と出会って変わっていく人々の人生を描いた物語。イベントは、本年の「障がい者週間」(12月3~9日)に合わせたもので、映画の試写会とともに障がい者の方々の自立と社会参加の支援を目的とした講演会となる。
大泉は、大西選手の自然体で明るいキャラクターに笑いながらトークを展開。大西選手の義足がパステルカラーの可愛らしいカラフルなものになっており、その部分に大西選手が「『水曜どうでしょう』のスポンサーになって頂ければ!」と、ラブコールを送ると、大泉も「あの番組そんなに予算はないかもしれないですけど、嬉しいお話ですね。あのヒゲ(のプロデューサー)に言えば作るかも」と、身を乗り出すことも。
そんな話で会場の空気も温まったなか大泉は、本作に惹かれた理由として「ボランティアの方に24時間介助してもらわないと生きていけない方が、どうして真夜中に眠たい方を起こしてバナナを食べたいと言えたんだろうという疑問が湧いてきて、それを知りたいというところから始まりました」といい、演じ終えてみると「『こんな夜更けにバナナかよ』という彼のワガママから出た言葉に聞こえなくなっていたという不思議な体験をしましたね」という仕上がりになっているそうだ。
モチーフとなった鹿野さんを演じることへ大泉は「鹿野さんのことを知っている人がいっぱいいるんです。鹿野さんの話を聞きながら役に入っていけるというのはなんかねぇ、こんな体験は役者としてしたことないなっていう思いもありました。これから演じるというシーンに行く前に、『そのときの鹿野さんはどんな感じだった?』って聞くんです。それで、実際の話を聞いてなんか泣けてきて。本番前にちょっと泣いてから本番を演じるということがあって。もちろん難しい役ではあったんだけど、なんだろうなぁ、ドキュメンタリー番組に出ているような、鹿野さんを追っていくような体験でしたね」と、その撮影を振り返った。
そんな気持ちがたくさん詰まっているだけに渡辺氏としては「大泉さんと鹿野さんは背丈といい顔つきといい似ても似つかないわけですけど、同時に本当に不思議なことにウリ二つに見える瞬間があるんです」と、その役作りを讃えつつ、「鹿野さんと大泉さんが共同で作り上げた不思議なキャラクターということで、“鹿泉さん”と呼んでいます(笑)」と言い出し、会場を和ませることも。そこに大泉も「私としては(劇中のビジュアルが)ひょっこりはんに似てしまった感じ」と、乗っかりさらなる笑いを誘っていた。
作品に影響を受けた部分について、大泉は「人に迷惑をかけるというのはそこまで恐れる必要はないのかなって。自分1人でできないことがあったら助けを求める。でも、逆に求められたときに助けてあげられる人になってほしいなって。人の迷惑を許してあげられるといいのかなって」と、気持ちを伝える。
さらに、大泉は「普段映画をやっていると『この映画で何か伝えたいことはありますか?』と聞かれるんですけど、伝えたいことはとくにないんだけど、楽しければいいと思うんです。でも、この映画にかんしては、そんなに強いメッセージはないけれど、僕たちが見せたかったのはエンターテインメントでストーリーなんです。この映画を観ることによって、障がい者の方はこういう風に思っているんだとか、障がい者とボランティアの関係はどういうのが望ましいのだろうかとか、いろんなきっかけになればと思います。究極には、この映画のタイトルがワガママに聞こえない社会が実現できれば、障がいのある方にとってもいい社会ではないかと思います」と、コメントを寄せた。
最後に大泉は「とっても面白い映画だと思います。私たちが作りたかったのは決して重たい映画ではありません。コメディーの要素がたくさんあって、ジーンとするところはジーンとして頂いて、何かこの映画が人々の考えるきっかけになるといいなと思っています」と、呼びかけていた。
映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』は28日より全国ロードショー!