アイドルグループ『A.B.C-Z』の五関晃一(34)が19日、東京・新宿の紀伊國屋ホールで初単独主演舞台『奇子(あやこ)』(上演台本・演出:中屋敷法仁)東京公演ゲネプロを開催し、熱演で魅せた。
漫画家・手塚治虫氏の漫画作品『奇子』が原作。敗戦直後の東北の農村地帯で、大地主の天外一族の遺産相続をめぐる骨肉の争いと恐ろしい欲望の果てにこの世に産み落とされた、奇子。一族の体面のために土蔵の地下室に幽閉され、下界から隔絶して育てられた、やがて性に対して奔放な美しい成人女性として世に放たれていくことになる……。
すでに14日よりプレビュー公演として水戸公演を行っていることもあり、キャスト陣の息も合ったもので、戦後日本の農村に住む一族の様子や、おどろおどろしい雰囲気を舞台上にしっかり表現していた。
終演後には五関、梶原善、演出の中屋敷氏と囲み会見を行い、五関は「水戸で経験しているので東京ではよりブラッシュアップしたものをと思っています」と、意気込みを。
出演が決まったとき、五関は「単純にすごく喜んだんですよ。やった!単独主演だ!!って。でも、話を聞いていくといろんなものが乗っかってきて手塚さんの90周年とか。原作を読んでみて、こんな作品なんだって」と、徐々に重みが増していったという。
五関自身の解釈としては「時代背景とかキャラクターそれぞれが持っている欲も、初めて読んでいるときファンタジーと思うくらい現実とかけ離れている出来事だなと感じて。それをよりリアルに突き詰めていくのが大変で、中屋敷さんに相談させて頂きました」と、しみじみ。その一部としては、本作ではキャラクター自身がどんどん年をとっていくが、その演じ方をどうするかなどだったそうだ。
五関演じる仁朗という役は感情を出さないクールな感じのキャラクターで五関は「僕と重なるのは感情を吐露しないのと相談をしないというところで。(『A.B.C-Z』の)メンバーにも相談しないです。ほかのメンバーもソロで仕事をしているときに相談とかしてこないですから。そこ以外は僕は素直優しい人間ですよ」と、柔和な笑みを見せる。
さらに、仁朗といえば、眼帯が特徴。こちらにもエピソードがあるそうで、「初めてつけてけいこしたときはバランスがおかしくなってしまいました。酔ったり、方向感覚がおかしくなって。でも2回目からは大丈夫でしたね」とか。
そんな五関を中屋敷氏は目を細めながら「本当に文句を言わないんです。原作が厚くてそこに僕の無茶苦茶な演出もあって、苦労と思わず、はたから見るとノリノリでやってくれて、そこに五関くんなりの解釈も入れてアーティストとしてやってくれて。できないだろうなって思うようなことを要求したんですけど、それを更新していって」と、その姿勢に感心していた。
作品へ総じて梶原が「重いですねぇ……」というほど重苦しい作品だが、けいこ場のキャスト陣は逆に明るかったそうで、五関が「けいこ場は最初から笑いが起きるくらいで」というと、中屋敷氏は、「俳優同志のやり取りが濃密で、千秋楽までさらに発展していくのではないかなと思っています」と意気の高さを挙げる。梶原も「昔なじみの劇団員みたいな感じなんです。最初のシーンの爆発が起こった瞬間から切り替わってます」というほどなのだそうだ。
また、五関へは事務所の社長で9日に亡くなったジャニー喜多川さんの話を問うと、「僕が1人で舞台に立っているというのは初めてだと思うので喜んでくれると思います。ダメ出しをされないように気をつけたいと思います」と、気持ちを入れ直す。もしジャニーさんから具体的なダメ出しをされるとしたらと問うと、「『YOUちっちゃいよ!』ですね。ジャニーさんに怒られるときって、8、9割がそうで。ジャニーズ舞台でいろんな衣装を着込むときに余計にちっちゃく見えちゃうみたいで、『YOUは着ないでくれ』と言われて」と、身長のことを言い出すことに。
ジャニーさんから、そう言われそうなことを見越したのか五関は「この舞台中ではインソールを入れさせて頂いてます。何センチ?それはちょっと」と、人さし指を口に当てる。すると梶原が「身長のことじゃなくて、気持ち的なことじゃ……舞台で大きく羽ばたきなさいってことだと思うんだ。だからインソールの問題じゃないのでは」と、ツッコミを入れ場内は沸き返っていた。
そして五関から「僕と一緒にほら穴に一緒に入ったつもりでドキドキ、ザワザワしてください」と呼びかけていた舞台『奇子(あやこ)』東京公演は19日から同28日まで紀伊國屋ホールにて、大阪公演は8月3、4日にサンケイホールブリーゼにて上演!
■STORY
青森県で500年の歴史を誇る大地主・天外一族。村では絶大な富と権力を誇っていたが、終戦後の農地改正法により、その勢いは静かに衰えつつあった。
太平洋戦争から復員した仁朗が帰ると、家には奇子という妹が生まれていた。それは父・作右衛門と兄嫁・すえの間に生まれた私生児だった。兄の市朗が、遺産ほしさに妻であるすえを差し出したというのだ。
「うちは異常な家だ!狂ってるんだ!」
そんな仁朗も、しかし、GHQのスパイとして仲間を売って生き延びて来た。
組 織の命令により、さらなる陰謀に加担して行く仁朗。
仁朗の犯した罪、一族の犯した罪=奇子が複雑に絡み合い、やがて奇子は土蔵の地下に閉じ込められ、死んだことにされる。それから十一年後、末弟・伺朗は強く反発している。
「うちの家系はまるで汚物溜だ。犬か猫みてぇに混ざり合って、そのつど、金と権力でもみ消したんだ…」
さらに十一年後、地下で育てられ続けてきた奇子は、伺朗により地上へと出される。 隠蔽した罪や過去が、次々に暴かれ、やがて一族を滅ぼすことになる。地方旧家の愛欲、戦後歴史の闇を描く因果の物語。
■登場人物
天外仁朗(次男):五関晃一(A.B.C-Z)
天外伺朗(三男):三津谷亮
下田波奈夫(刑事):味方良介
奇子:駒井蓮
天外すえ(長男の妻):深谷由梨香
天外志子(長女):松本妃代
お涼:相原雪月花
山崎(親戚の医師):中村まこと
天外市朗(長男):梶原善