俳優・佐藤アツヒロ(47)が6日、東京・浅草九劇で会話劇『YARNS』(演出・鈴木勝秀)取材会を開いた。
“スズカツ”の略称でも親しまれる脚本家・演出家の鈴木勝秀氏による、「能楽と現代劇の融合」を模索した“スズカツ能楽集”のスタートとなる作品。『YARNS(ヤーンズ)』とは、英語で「紡ぎ糸」という意味で、さらに、「作り話」「大げさなホラ話」といった意味もある。カウンセリングを受けに来る精神的に少し疲れた現代人と、その患者の話を聞くカウンセラー(精神科医)・ランバシの静かな会話劇となっており、佐藤は見知らぬ女を夢に見て苦しみカウンセリングを受けに来る患者・スガヌマを演じることとなる。
ゲネプロを前に佐藤と鈴木氏が舞台をバックに報道陣の取材に応じることに。舞台は、薄い透明のシートに囲まれているうえ、シートの中にはアクリル板が数枚立てられているという中でのものに。この光景へ佐藤は「初めて劇場に入った時、驚きました。もちろん模型では見ていましたけど、すごいなと。なにげに感染対策を含めたセットになっていて制限されている中でスズカツさんがどう演出していくかということです」と、新鮮な驚きがあったという。
鈴木氏は、本セットは新型コロナウイルス感染症対策のためだったといい「対策をすることによって必然的に出てくることを、僕はなるべく前向きに考えたいので徹底的にやるとこうなってくるぞというのをやってみると面白くて。こんな芝居もあるんだと僕にとって収穫の多い芝居で、やりごたえがあります」と、演出の幅がさらに広がったという。
さらにセットについて解説を求めると鈴木氏は「囲っている透明のシートは中に入るとわかるんですけど、鏡になっていて、役者陣は外が見えず、自分の顔を見ながら芝居をすることになるんです。スピーカーとアンプで声が出るのではっきりセリフは聞こえるんですけど、役者は上から聞こえてくる声だけでやるんことになるんです。だから俳優は内向的になるので本当に大変だと思います」といい、佐藤も「やってる役者陣は大変です(苦笑)。大変なんですけど、それをなんとかしていくという感じで……。自信をもってやりたいんですけど、不安になってしょうがない。お客さんの空気もわからないから孤独なんです。けいこより隔離されててヤバいです。汗はかかないですけど、心の汗はすごくかいてます」と、難度の高い舞台という。
それでも佐藤は前向きで、「コロナを演劇として、広げた世界観に組み込んですごいな思いますし、その場所に自分でいられることも嬉しいなと思います」と、やりがいを感じているようだった。
続けて、作品にちなんで、カウンセリングを受けたいと思ったことはないかとの質問が。これに佐藤は、「誰かのせいにしないで、自分のせいだと思うタイプなので」と、自分で責任を引き受けているそうで、「主人公もそういうタイプで、物語上、再婚相手に相談した結果行ってみようという感じで、ずどーんって気持ちが落ちてからカウンセリングに行こううかという感じではないんです」と、カラリと話す。
新型コロナウイルス拡大防止のための“おうち時間”をどう過ごしていたかへは、「何もできないというかで、近くの公園に行って空を見たり、自然と触れ合ったり、花を見たり、写真を撮ったりしてました。体がなまるので運動したりして」と、振り返る。では、本舞台けいこ中のコミュニケーションはと尋ねると、「けいこ中には1週間に1回PCR検査しているし、ご飯は行ってないんです。そこでスズカツさんがけいこ場で1時間くらい『飲み屋にいるような感じで話して』と言ってくれて。これはどう思いますか、俺ならこうしますと意見を交換できて」と、苦労している様子を窺わせていた。
会見終盤にも再び鈴木氏が「照明が入ると見え方が変わりますから!クリアになったりぼやけたり3つある窓が4つとか5つに見えるような感じになるので」と、アピールしたことから佐藤が明るく「観終わった後感想変わると思うので、観終わった後にまた話をしたいです」と、急きょ再び会見を申し出たが鈴木氏は「全然おもしろくなかった場合困るから(苦笑)」と、ぶっちゃけて話し笑いを誘っていた。
そして佐藤から、「この状況でやっていますけど、僕たちができることを1つ1つやりながらお客様も感染対策をしながら千秋楽まで無事成功できれば。感染対策をしつつ、ご覧いただけたら。無理しなくていいです。1人1人が小さな小さな幸せをみんなで集めて未来へつなげていこうと。僕たち、スタッフ・出演者で頑張りたいと思います」と、意気込んでいた。
会話劇『YARNS』東京公演は7日から11月8日まで浅草九劇、大阪公演は11月21日から23日までシアター・ドラマシティにて上演予定!
■STORY
高校の同級生との再婚を考えているスガヌマは、ある日から見知らぬ女の夢を見るようになる。この夢に苦しむスガヌマは、精神
科医・ランバシの勧めにより、夢日記と箱庭療法を始めた。ランバシの実子であるトオルは激しいマザーコンプレックスで、時々カ
ウンセリング・ルームに現れてはランバシを困らせる。
夢日記と箱庭療法によって、奇妙なスガヌマの夢の細部が次第に浮かび上がってくる。箱庭に表現された灯台のある風景は、スガヌマの幼少時に描かれた絵と同じものだった。これは前世の記憶かもしれないと疑うランバシと、にわかには信じられないスガヌマ……。そしてふたりは、さらにスガヌマの深層へと下りていく――
※記事内写真は「撮影:岩田えり」