アニメーション『劇場版「SHIROBAKO」』トークショー『悪あがきだよヨーソロー!』が3日、東京・立川シネマシティ シネマ・ツーで開催され宮森あおい役・木村珠莉、水島努監督が登壇し、永谷敬之プロデューサーが司会を務めた。
『SHIROBAKO』は、アニメーション制作の仕事をアニメーションで描いた作品。主人公・宮森あおいの務める“ムサニ”こと株式会社武蔵野アニメーションを舞台に、制作進行、アニメーター、声優、3DCGクリエイター、脚本家を志望し夢を追う5人の女性を、ときにコミカルに、ときにシリアスに、ときにほろりとさせる展開で描いている。2014年10月から15年にかけ2クールでTVアニメ化され感動を呼んだ。本作はその劇場版となり、2月29日より全国各劇場で上映され、現在は公開時よりグレードアップした内容で再上映中となっている。
木村は「7ヶ月の時を経て、みなさんとこうしてお話できる機会をいただけたことが、本当に幸せなことだと思います」と、笑みを浮かべ、水島監督は「作品が完成したときは、すぐに舞台あいさつができると思ってエンディングに舞台あいさつのシーンを入れたんですけど、まさか7ヶ月も経ってしまうとは思いませんでした。ただ、今はこういった機会をいただけて感無量です」と、胸いっぱいといった様子。
永谷プロデューサーから「本作をファンのみなさんにお届けできた今の心境は?」と質問すると、水島監督は、「2月29日の公開はタイミング的によくないと、いろいろな方に言われました。でも、あと1ヶ月遅れていたらいつ公開できていたかわかりませんでしたし、再上映版として長いスパンで上映していただき、こうして舞台あいさつもできたので、逆にあのタイミングで公開できたことはよかったと、今は前向きに考えています」と、しみじみ。
木村んは「キャストたちはみんな、『SHIROBAKO』という作品を愛していて、劇場の本編を見たあとに、舞台あいさつでファンのみなさんと『あそこよかったよね』って、語りあいたいと思っていました。でも、世界的な状況によって、それができないってわかった後のもどかしい感じが、タイマス事変後のムサニの状況と重なって見えてしまって……。スタッフのみなさんも辛かったと思いますし、私たちも気軽に『観に来てね』とは言えない状況で、どうしたらいいのか悩んだこともありました……。なのできょうという日を迎えられたことは、とても嬉しいです」と、作品で主人公たちが置かれる状況と現実の状況を重ねたのだとか。
永谷プロデューサーも「正直、僕らも初めてのことだったので、どうしていいかわかりませんでした。でも、本作はアニメ業界を描いた作品なので、このタイミングで上映するのもある種の運命というか、めぐり合わせなのかなと思いました」と、公開時の思いを話した。
トークは本編の内容へ。劇場版でやりたかったことへ水島監督は「やりたかったことは(劇中作の)空中強襲揚陸艦SIVAと同じですね。現実には思うようにいかないことってたくさんあって、そういうことが続くと、『もういいかな』と諦めてしまうことがあると思うんです。それでも『うまく行かないことがあってもやり続けるんだ』という、人生と言ったら大げさかもしれませんが、仕事をするときの心構えをSIVAの中に全部込めています」と、メッセージを込めたという。
本作では、ムサニの様子がTVアニメ時からがらりと変わっていたが、どんな意図があったのかへ水島監督は「アニメ業界のあるあるなんですが、絶好調のときって、その後すとーんと落ちてしまうことが多いんです。具体的なことは伏せますが(笑)。タイマス事変みたいなことはわりとあって、そこから這い上がれる人と這い上がれない人がいます。若いときにブイブイ言わせてた人が、そんな嫌なことをきっかけにそのまま沈んだままになっていたりして……。そういった業界のあるあるに向き合って描いていこうと思ったんです」と、自身が見てきた世界を落とし込んだという。
すると、永谷プロデューサーもタイマス事変について、「アニメ業界は信用で進んでいく部分があり、たとえば水島監督と『SHIROBAKO』という企画をいっしょにやりましょうと、お願いした初期段階には契約書がないことが多いんです。その後作品の企画書を作って、各出資者の稟議を通って初めて制作にGOが出るんです。今回は丸川が相手を信用しすぎたと言っていましたが、アニメ業界的にはよくある進め方で、現実ではプロデューサーがそういうことをしっかりとクリアしていって、平穏に進んでいくことがほとんどです。なのでシナリオ会議で脚本を読んだとき、『モデルケースのある話ではないよな?』とは思いました(笑)」と、あくまでフィクションだと着地しようとする。しかし、水島監督はすかさず「いや(モデルが)ありますよ?」と、ツッコミをいれ、場内は爆笑に包まれていた。
続けて、演技の話題へ。TVシリーズから成長した宮森について、木村は「私の中で宮森はあまり『成長していく主人公』という感じではなく、最初からできちゃう子で、メンタルの部分もミムジー&ロロのおかげで、一人でどうにかしちゃう……そんな宮森の超人的なところを感じながら、TVシリーズは演じていました。今回の劇場版はそんな宮森の超人的な部分でみんなを巻き込んでいき、SIVAを成功させたいと自ら動いていたので、そこがTVシリーズとの大きな違いだと思いました」と、コメント。すると水島監督は「木村さんの仰るとおりで、今回は巻き込まれる宮森ではなく、自分の意思で巻き込んでいくというのが1つのテーマでした」と、劇場版の宮森のイメージを木村が汲み取って演じていたことを喜ぶことも。
また、木村さんは今後の宮森について「今度はナベP案件ではなく、自分のやりたいことをやって、自ら嵐を巻き起こしていく姿を見てみたいです」と話すと、次にムサニが何を作るのかという話題に。その中で、宮森たちが自主制作した『神仏混淆 七福陣』が挙がるが、木村はかつて水島監督から「七福陣は売れない」と言われたというエピソードを披露。
水島監督はそう言ったことを覚えていなかったものの、七福陣にまつわる話として「自分たちが学生時代に作ったものが、拙くて見たくないと思ったときが、プロのスタートラインだと思います」と話し、永谷プロデューサーも「これをやりたい!と言ったときに、客観的に見ても面白いものかどうかが大事で、思入れだけでやりたいとか、ずっと好きだったからと盲目的な発想で進むと事故になることが多いんです。なので宮森がなにか企画を出したときは、宮井などの客観的な立場の反応が大事だと思っています」と、企画を出す際の心構えについてアドバイスしていた。
そして、永谷プロデューサーから「劇場版の後のムサニは、どうなっていくと思いますか?」との質問が。これに木村は「ムサニの若い人たちが、大きな傷から立ち直るという経験をしたのは大きかったと思います。もしまた今度大きなトラブルが起きたとしても、自分たちの力でなんとかできると思います」というと、水島監督は「げ~ぺ~う~が放り出した企画を、ムサニが受けて、クオリティもそこそこにしっかりと完成させたという話は、業界に確実に広まっていると思います。でも、すぐには良くならないですし、過去のことでいろいろと言う人はまだいると思いますが、協力してくれる人は前より増えて、ここから好転すると思います」と、ムサニの明るい未来を語っていた。
最後は3人があらためてファンに向け、永谷プロデューサーは「本当は2月29日、3月1日にキャストのみなさんが舞台あいさつに登壇する予定でした。今日は各所のご協力もあり、こういった形でトークショーをさせていただきましたが、ほかの登壇予定だったキャストも話したいことがまだたくさんあると思います。なのできょうが終わりではなくて、これからも『劇場版SHIROBAKO』で何かしらの機会を設けていければと思っておりますので、その際はぜひ劇場に足を運んで頂ければと思います」と、コメント。
水島監督は「今パッケージ版の作業をしておりまして、まだ終わった感じがしない作品です。実は納品がまだなんですよね……あとちょっと伸ばせません?」と、作中の木下監督のようなやりとりで会場の笑いを取りつつ、「制作が『無理っす』と言う、最後の最後まで粘っていきたいと思いますので、よろしくお願いします」と、パッケージ版への意気込みを。
そして木村が、「『劇場版「SHIROBAKO」』を最初見たとき、すごい小ネタがたくさんあって、『あのシーンなんだろう?』となったんです。実は(元ムサニの制作進行だった)落合さんが出ていたりするので、そういった細かい部分をパッケージ版で見ていただければと思います。また、いつか当初登壇予定だったキャストのお話をみんなに届けられる機会があればと思っています。これからもファンのみなさんが『SHIROBAKO』を好きでいてくれる限り、イベントはまたできると思っておりますので、今後とも再上映版やパッケージ版をみんなに広めていただけたら嬉しいです」と、ファンにあいさつ。
ラストは宮森たちの決めセリフ「どんどんドーナツ、ドーンといこう!」を、大声は出さず控えめに会場のみんなと誓い合い、業界話満載のトークショーは終了した。
アニメーション『劇場版「SHIROBAKO」』は絶賛再上映中!