俳優・仲野太賀が5日、東京・代官山蔦屋書店で映画『すばらしき世界』(監督:西川美和/配給:ワーナー・ブラザース映画)公開記念トークイベントを西川監督とともに開いた。
西川監督が実在の人物をモデルとした原案小説をもとに、その舞台を約 35 年後の現代に置き換え、徹底した取材を通じて脚本・映画化に挑んだ作品。元殺人犯の三上(役所広司)が、生きづらい社会の中で、一度レールを外れても懸命にやり直そうとする男と、彼を追う若きテレビマンのカメラを通して「社会」と「人間」の“今”をえぐる。仲野は長澤まさみ演じる吉澤とともに三上を追う、若手テレビマンの津乃田役を演じている。
仲野は西川監督の手掛けた映画『ゆれる』を中学生のときに観て衝撃を受けるとともに、憧れを持った数少ない人物だったといい、本作とのかかわりは「その時はオーディションじゃないですけど、1回会いましょうということで、西川さんの事務所に行くことになったんです、その時は信じられない気持ちでいっぱいでした」と、夢心地だったという。
そんな仲野だが、西川監督のオフィスに1人でふらっと訪れたそうで、西川監督は「これは作戦なの?こいつ、分かってるなと(笑)。ひとりできてくれたその感じで、距離が縮まったように思ったんです。そこから脚本を読んでどう感じたのか、そういうことを質問して、太賀くんから出た言葉をヒントに改訂していきました。演じる役の性格とその俳優の性格がリンクしている方が良い時と
そうじゃない時がある。津乃田役は近い方が良いと思いましたし、太賀くんには、(この役に必要な)観察者の目をもっている気がしたので、実際に会って確かめたいと思いました」と、エピソードを披露した。
撮影スタッフの話に向いた際に、本作が石井聰亙(現:岳龍)、阪本順治、豊田利晃ら数々の名監督と組んできた笠松則通氏が担当していることが挙がり、仲野は「それこそ僕も笠松さんのファンだし、笠松さんに撮ってもらえるんだという喜びがありました。でも優れた撮影の方ってみんなそうなんですけど、いざカメラの前に立つと受け入れてくれるんです。ドシッと構えているけど、とてもやりやすい環境でした」と感じたという。一方、西川監督は「笠松さんも、普段は絶対に俳優部にこう動いてほしいとか、言わないんですけど、太賀くんにだけは言っていたよね」と、仲野と笠松氏の近い関係性を感じさせるコメントが飛び出すことも。
続けて西川監督は、仲野のことを「妖怪・人たらし」と親しみを込めて呼んでいることを明かし、が「(太賀くんは)スタッフと俳優の狭間にいるような人。現場にいつ来たか分からない。照明部がひとり増えたのかなと思ったら太賀くんだったということもあって。どんなに親しみやすい俳優さんでも、現場に入ってきた瞬間に空気が変わるんですよ。緊
張感があって、俳優が帰るとグッと力が抜けるような感じ。太賀くんにはそれがないんですよね」と、話していた。
仲野は共演の長澤へ、「僕としては強い縁を感じるし、信頼も置いていただいているなという自覚もあって。僕も信頼していますし、長澤さんだったら姉弟もできますし、上司も部下もできる。信頼関係があるので、長澤さんとの関係は楽しいですね。役者も、『はじめまして』で芝居をすることはありますけど、信頼関係があるとより大胆にならざるを得ないというか。スッと入っていける感じがあります」と、話す。これに西川監督は「キムラ緑子さんは、役所さんとの共演が一番多いとおっしゃっていたんですよ。それで(劇中で見せる)あのお芝居じゃないですか。2人のシーンはとてもいいシーンなんです。長澤さんと太賀くんもそうなるかもね」と語り、仲野も、「波長も合うし、信頼関係や化学反応もあるので、いろんな組み合わせでやれたらいいなと思います」と、うなずいた。
ちなみに、仲野は、西川組における長澤へ「西川組だからというのもあると思います。
長澤さんのソワソワした感じもなかなか見ることができない(笑)。普段は、どっしりという感じではないけど、(主演という)軸が長澤さんにある現場でご一緒するところが多かったんです。でも今回は役所さんという軸があって、素直に憧れや尊敬もあるし、こっちが勝手に感じてしまっているだけなんですけど(役所さんに)どこかで試されているような気になってしまう。長澤さんは、1個1個の作品に誠実に向き合っている人なんだとあらためて感じました」と、話していた。
イベント終盤には今月7日に28歳の誕生日を控える仲野へ、西川監督からサプライズでプレゼントが!上田義彦、ソール・ライターという2人の写真家の本を手渡された仲
野は「ありがとうございます。うわぁ、嬉しい~!!」と感激した様子でコメント。会場からは拍手で祝福する温かい空気に包まれていた。
映画『すばらしき世界』は11日より全国公開予定!
■STORY
下町の片隅で暮らす短気ですぐカッとなる三上(役所広司)は、強面の見た目に反して、優しくて真っ直ぐすぎて困っている人を放っておけない男。しかし彼は、人生の大半を刑務所で暮らした元殺人犯だった。一度社会のレールを外れるも何とか再生しようと悪戦苦闘する三上に、若手テレビマンの津乃田(仲野太賀)と吉澤(長澤まさみ)がすり寄りネタにしようと目論むが……。三上の過去と今を追ううちに、逆に思いもよらないものを目撃していく――。
※記事内写真は(c)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会