VR演劇『僕はまだ死んでない』取材会が25日、都内で開かれ原案・演出を担当したウォーリー木下氏がコメントを寄せた。
新型コロナウイルス禍のいまだからこそ、届けられる作品もあるはずという出発点から企画を立ち上げ、本作が誕生。演劇のオンデマンド配信作品ではなく、映像で演劇を楽しむことを目的としており、360度自由に観られるものとなる。
木下氏は、「この企画はまず、VRで演劇を作ろう、というところから始まりました。私自身も初めてのVRだったのでいろんな形のVRを体験しましたが、その中でも360度カメラのVR映像にとても惹かれました。その360度カメラを使って、円形舞台の反対、お客さんが真ん中にいて周りを役者が囲む『ドーナツ型』の舞台を作ろうと思いました。つまり、舞台上の真ん中にカメラを置くことで、真ん中にお客さんの視点がある、という形です。そのお客さんの存在を役者も感じながら話が進んでいく、また、一方的でアクションは起こせないという制約などを考え、当時ちょうど『終末医療』について勉強していたことも重なり、この物語を作りました」と、制作過程を。
木下氏は「生」の演劇の感じにこだわったようで、「どうやったら映像配信でもより演劇に近い臨場感を与えられるか……と考える中で、『お客さんが好きなところを観ることができる』『いろいろな人たちが一堂に集まって、個人個人の心の中でドラマを楽しむ』というのが演劇の魅力だと思いましたが、それに近いことを、360度カメラを体験した時に感じました」と、話す。
作品を観て、「『終末医療』という重たいテーマであり、ズシリとも来るのですが、広田(淳一)くんの脚本によって軽やかな人間ドラマに昇華されていて、いい意味でひと事のようにも感じられ、その距離感がVRにとても合っていたと思います」と、手応えを感じたようだ。
今後VR演劇でやってみたいことを尋ねると、「たくさんあります。お客さんが能動的に動くことでアクションやドラマが変わっていったり、例えばVRグローブを使ったりなど、もっとインタラクティブ(双方向)なものが作れたら、より演劇として面白くなるなと思っています」と、さまざまなアイデアがあるようで、「『VR演劇元年』が2020年に始まったと感じています。演劇の豊かな発展につながっていくと思いますし、いちアーティストとしてとても面白い表現だと感じています。これをどんどんブラッシュアップさせ、ここから新しいものが生まれていくのだと思います。ぜひ、怖がらずに試していただけたら嬉しいです」と、メッセージを寄せている。
VR演劇『僕はまだ死んでない』は3月31日午後11時59分まで配信チケットを販売し、4月7日午後11時59分まで閲覧可能となっている。
■作品概要
僕は病室にいた。
父と、僕の友人が何やら話をしている。が、体がぴくりとも動かない。一体僕に何が起こった?
医師らしき声も聞こえる。「現状、一命を取り留めていることがすでに大きな幸運なんです」
……なるほど。そういうことなのか。
デザイナーとしての会社務めを半年前に辞め、油絵に打ち込んで夢だった画家への道を歩み始めた矢先だった。脳卒中で倒れ、自分の意志で動かせるのは眼球と瞼だけ。「やってられるか、バカ野郎!」とたった一言伝えるのに5分以上かかる。
そして病室には、飄々と振る舞い軽口も叩く父、慎一郎。
兄貴分の幼馴染で、親身になって回復を願っている碧。
離婚の話し合いが進み、新たな生活に踏み出し始めていた妻、朱音。
そして、担当医である青山。
「良く死ぬことも含めての良く生きること」
直人と、直人を取り巻く人々それぞれに、胸に去来する想いがあり…。
■スタッフ・キャスト
【原案・演出】ウォーリー木下
【脚本】広田淳一
【音楽】吉田能
【出演】
白井直人役:内海啓貴
白井慎一郎役:斉藤直樹
児玉碧役:加藤良輔
青山樹里役:輝有子
白井朱音役:渋谷飛鳥
白井直人(幼少期)役:瀧本弦音
児玉碧(幼少期)役:木原悠翔
美術:石原敬
照明:島田美希
音響:けんのき敦
衣裳:ゴウダアツコ
ヘアメイク:鎌田直樹
演出助手:相原雪月花
舞台監督:清水浩志
撮影・技術協力:アルファコード/水野拓宏、齋藤浩太郎、岡田将典、中岡正博、韮澤貴翔、野村 譲誉、三村信貴、平野巧二郎、與古田信也、橋本百恵、島田淳平、大塚剛司、高坂茂樹、野沢勇人
演出部:櫻井健太郎、馬渕早希
照明:クリエイティブ・アート・スィンク/折登谷早希、伊藤安佑
音響:オフィス新音/立石智史
衣裳:上野沙織
ヘアメイク:杉山えみ、岩田知世
大道具:株式会社俳優座劇場/井戸元洋
小道具:高津装飾美術株式会社/西村大志
運搬:クリエイティブ・アート・スィンク/浅野 猛
舞台製作:クリエイティブ・アート・スィンク/加賀谷吉之輔
医療監修協力:帝京大学医学部整形外科学講座 塚田 圭輔 先生、帝京大学医学部附属病院 脳神経外科 中里一郎 先生
宣伝:ディップス・プラネット
宣伝美術:ycoment/菅原麻衣子
Web デザイン:メテオデザイン
宣伝・舞台写真:岡 千里
制作:山本涼子、平林和子
プロデューサー:江口剛史