歌舞伎俳優・中村勘九郎、中村七之助、尾上松也、串田和美が11日、東京・渋谷のBunkamura シアターコクーンから渋谷・コクーン歌舞伎 第十七弾『夏祭浪花鑑』オンライン取材会を開催した。
コクーン歌舞伎とは、十八世中村勘三郎と演出家・串田和美とがタッグを組み1994年に産声を上げた。古典歌舞伎を一から読み直し、現代に重ね合わせて演出する斬新な手法で次々と話題作を生んでいる。浪花の市井の人々を描いた本作『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』は、1996年、2003年、2008年に上演されたうえ、アメリカやヨーロッパでも上演されるなど、時代、文化を問わず愛されている作品として知られている。
まずは、勘九郎から新型コロナウイルス禍で緊急事態宣言下のなかで明日12日に初日を迎えられることに、「大変な状況のなか幕を開けることができて嬉しいです。この祭りの火が消えなかったというのは、私達役者、エンターテインメントの人間としても次に進むステップの1つになったのかなと思います。世の中本当に大変ですけど、いらしてくださったお客様1人1人心の栄養になるように、一致団結して超楽しいお祭をお見せしますので、楽しみにしていてください」と、あいさつ。
作品へ勘九郎は「義理人情ということが薄まっている時代に、ハッと思わせてくれるような作品です。受けた恩を、必ず返すというか、温かさ・優しさ・思いやりではなく体の芯からにじみ出てくるものなので、そういうものを忘れちゃいけないなと思います」と、こめられたものを話す。
七之助からは、「この作品は、自分のためではなく、人のために動いている人たちのお話です。これは愛だなと思っています。そんなに頭のいい人は出てこないですが、こんなに、頭ではなくて、心の底から、腹の底から人のために動ける動物的に動ける人たちの悲しさもあり、こういうふうに生きなきゃいけないという熱い魂のお話なんじゃないかなと思います」と、心に訴えかけるものが多いという。
尾上は、「時代だからこそというとベタかもしれませんが、みんなが血がつながっているわけではないのに、絆や支え合いでつながっていける、信じ合える、愛し合えるというのは、いまこういう状況下だからこそ、僕たちがお芝居でやらなきゃいけないし、観て頂いたお客さまにも感じるものがあると思います」と、メッセージを寄せた。
串田は演出を担当するにあたり、「とにかくずっとやってきたものを、大切なものを、壊さないようにしたいという思いが最初は強くありました。いろんな条件がどんどん変わる中で、あれが駄目だ、これも駄目かということをたくさんやってきました。そのときはつらいなと思いましたが、いま初日をあける前の日ですが、これまでやってきた努力があってよかったなと思いました。その乗り越えられる力は一座というか、勘三郎さんと最初に作り、その意志を息子さんたち、お弟子さんたちがずっと支えてきたパワーがこの幕を開けたんだと思います。本当に素晴らしい一座です」と、しみじみ。
さらに、作品がお祭りを扱うということで、串田は「お祭りというものはどうやら長い歴史のなかで、楽しいときだけやるものではなく、人間に事故があったり苦しいことがあったり災害があったりしたときに、お祭りで祓おうとしたと。苦しいときにお祭りをやろう、お祭りでそれを祓おうとしたというのが大元にあるんだなって。つらいときこそお祭りのエッセンスを思い出そうよという気持ちで演出しました」という気持ちで演出していたことを明かしていた。
また、団七九郎兵衛役を演じる勘九郎へは、次男の二代目中村長三郎が本作で団七伜市松役として配役されており、長三郎の反応についても質問が飛ぶ。この愛息の質問を聞いた瞬間に勘九郎は思わず笑みが漏れる子煩悩な親の顔を見せつつ、「毎日楽しんで舞台をつとめるというか、空間を楽しんでいる姿を見て、ああいい経験なんだなと思いました。歌舞伎役者は型というものがあって、そこに心を込めていく作業をするんですけど、(コクーン歌舞伎のように)こういうゼロから『なんでもいいよ』『なんでもやって』という演出を受けたというのは、彼の後々の人生にプラスになっていくと思います。いろんなことを吸収して、自由に舞台空間に存在しているので親としても嬉しいですね」と、目を細めていた。
そして、勘九郎から「お客様の安全が第一だと思っています」と前置きしつつ「肉体の芸術というものを、『生きている』というものをお届けするのが私達の使命だと思っています。生きる鼓動を感じてもらえれば」と、呼びかけていた。
コクーン歌舞伎 第十七弾『夏祭浪花鑑』は12日から30日までBunkamura シアターコクーンにて上演予定。
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※記事内舞台写真は(C)松竹