黒崎博監督が語る「映画 太陽の子」柳楽優弥、有村架純、三浦春馬さん起用の裏話……森コウプロデューサー苦労も「無茶なのだけれど優しさがある」

黒崎博監督が語る「映画 太陽の子」柳楽優弥、有村架純、三浦春馬さん起用の裏話……森コウプロデューサー苦労も「無茶なのだけれど優しさがある」1

 俳優・柳楽優弥、有村架純、三浦春馬さんらが出演している現在公開中の『映画 太陽の子』(監督:黒崎博/配給:イオンエンターテイメント)。本作の黒崎監督、森コウプロデューサーによるスペシャルトークショーが14日、共感シアターにて配信された。

 太平洋戦争末期に存在した「F研究」と呼ばれる日本の原爆開発の事実が入っており、軍の密命を受けて研究した京都帝国大学・物理学研究室の若き科学者・石村修(柳楽)らの青春を通して描いている。修の幼馴染・世津役を有村、修の弟・裕之役を三浦春馬さんが演じている。

 全国公開が始まってちょうど1週間目のイベントということで、黒崎監督は「緊張感が続いている。明日は終戦記念日。この時期に観てもらえるのは、いろいろな意味を持っていると感じている」といい、森プロデューサーは「元々、8月6日を越えたら、あらためてここがスタートという気持ち。緊張感を持っている」と、それぞれの思いを明かし、トークイベントがスタート。

 企画のきっかけは、黒崎監督が広島の図書館で出会った若い科学者の日記からだったことは多くの場で語られているが、でき上がった脚本について、森は、「凄くセンシティブな内容。作った後どうなるんだろうか、ということを考えると日本国内では躊躇(ちゅうちょ)することが多いなと危惧した。だからこそ2019年だからこそ、海外との共同制作でできるのではと、進めた」と、内容の扱いの難しさと実現のための過程を振り返った。

 キャスティングについても公開前から評判になっているが、オファーに至ったきっかけや、理由を改めて質問。黒崎監督は、「柳楽さんは、『ディストラクション・ベイビーズ』で黙って人に殴りかかってくる役、『変態仮面』(HK変態仮面 アブノーマル・クライシス)の柳楽さんも、素晴らしいですよね、撮影前後で何回も観ました(笑)。この振れ幅は素晴らしいなって」と、柳楽の演技力にかねてから注目。

 「有村さんは、(佇まいが)柔らかく、人間を決めつけない。田中裕子さんが作ってくれる現場の空気は、静かな、その時間を暮らしている空気を流してくれる。田中さんと演じることは、いい意味で緊張感があるけれど、それを受け止めてくれていたから、有村さんでよかった」と、振り返った。

 「三浦さんは、『真夜中の五分前』の佇まいが素敵だったことと、あとは舞台。オファー前後だったかと思うが、『キンキーブーツ』や『罪と罰』を観て、身体の動きに感情を乗せてしまうんだ、と感動した」と、卓越した表現力を改めて認識したという。

 また、視聴者から、「最初、山本晋也さんだとは気づかなかった」というコメントが投稿されると、黒崎監督は「十数年ぶりくらいに、お会いした。ホテルの喫茶店でお話させていただき、役柄の説明も聞いてくれて出演を承諾してくれた。(演じる世津の祖父・朝倉清三役は)第二次世界大戦前の日中戦争から知っている役柄ではないか、今だけでなく長い長い戦争時代を大きな目で見てくださっているかもしれない、そういう目線でのキャラクターだった」と、山本の役柄の設定についても触れた。

 続けて、「國村隼さんもイッセー尾形さんも大好きな俳優。(本作が)尖ったテーマでセンシティブなため、好意的な人もいれば、批判的な意見の人もいる。でも、“そういうコントラバーシャル(議論を引き起こすような)な、意見が分かれるところを描くのが、<映画>でしょう”と、背中を押してくれたのが國村さん。また、そういうのを軽々飛び越えていくのがイッセー尾形さん」とベテラン俳優陣に、背中を押されたことも明かした。

 研究室メンバーについても語られることがあり、「三浦誠己さん(F研究のリーダー・木戸貴一役)が、“みんなで広島行かないと演じられません”と言ってくれて、それでみんなで広島へも行ってきてくれた。そういうステップ1つ1つをみんながやってくれて研究室の空気を作ってくれた」と感謝を交えながら話すと、森プロデューサーは「いろいろと、かなり大変でしたけれど(笑)。黒崎監督の前を向く気持ちに引っ張られる。じゃあ一緒にやりましょう、となる。客観的に見ていても、役についての質問なども的確だったので、みんな理解しているんだなと感じた」と、スタッフ・キャストの作品への愛を窺わせていた。

 中盤には森プロデューサーは冗談まじりに、撮影許可が寸前で降りるなど黒崎監督の無茶ぶりを振り返り、「意外に、無茶なのだけれど優しさがあるというか、ギリギリで、ここはどうにかなるんじゃないだろうかという状況を作ってくる。それで結局飛び越えられる、結局できてしまう。このタイミングで言われたら、やらざるを得ないというタイミングで言ってくるんですよね(笑)」と、苦労もあったそうだ。

 本編シーンについては、修(柳楽優弥)が大きなおにぎりを黙々と食べるシーンが話題にあがった。撮影について黒崎監督は「リハーサルも段取り取だけで、“よーいどん”で演じてもらっただけ。とにかくおにぎりを食べましょうと、と進めた。(撮影は山の上で)生で撮った虫や鳥の音も入っていて、(生命が)生きているから音に満ちている、世界は同じように生きている、戦争に関係なく命に満ちているということを主人公にフォーカスしようとした」と話す。

 当時、研究の目的で理系の学生が徴兵を免除されていた事実があったが、黒崎監督は「葉山奨之さん演じる学生が、志願したのに大学へ戻されるシーンがある。入隊検査ではねられて、大学に戻りなさい、という話があったわけだが、つまりそれは、先生が学生を呼び戻したことになる。それが倫理的に、善なのか悪なのか…それを実際にシーンに書き起こした」といい、まさにコントラバーシャルを描くことが映画だ、ということを実践していることにも触れた。

 視聴者から「科学と戦争の倫理についてはどう思うか」と質問。森プロデューサーは「科学者が戦争を起こしているわけではない。科学者が進めていることの先にあることは、誰がその発明を利用するかで変わってきてしまう。科学者たちのモチベーション、それが必ずしも結びつくものではなく、戦争というのは科学とは別の理由で起こる。自分が劇中で、1番好きなセリフがあって、世津(有村架純)ら3人が縁側で話すシーンで、自分が働いている工場で手伝っている幼い女の子たちに将来のことを聞くと、“お嫁さんになってぎょうさん子ども作ってお国に捧げる”と言われたことを振り返って、『間違っている。大人たちが決めたこと、社会が彼女たちにそう言わせている』と反発する。ここが当時考えなければいけなかったことなんだな、と。まさに、社会を作っている大人たちに責任があると思う」と答え、黒崎監督は「答えがないものなので、だから難しく、だからこの映画を作りたいと思ったという面もある。原爆開発が、戦争を早く終わらせた側面も結果としてあるが、それを勝った側と負けた側に分けてジャッジしてしまうと、どうしても、どちらか偏った結論に落ち着いてしまう。何が正解かわからないのものだから、日米合作にしたかったのもその理由で、勝者と敗者のストーリーにはしたくなく、それを飛び越えた視点に持っていきたかった。だからこの映画は独特で、誰かが勝った、間違えていた、とかを突き詰めていくものはない。それを選んだのは、どちらかを描いてしまえば、必ず“描けなくなったもの”があったから。だから、そこがこの映画の出発点だった」と続けた。

 本配信は、共感シアター歴代最高の“7万6000共感ポイント”を記録、作品への、関心・注目度の高さを窺わせるイベントとなった。

 『映画 太陽の子』は公開中!

 ※翌15日のトークショーの模様
 ・黒崎博監督「映画 太陽の子」三浦春馬さんの話に涙で言葉出ず……柳楽優弥、有村架純と3人で食卓囲むシーンへ「『いい兄弟だなぁ……』と思いました」

 ※『映画 太陽の子』過去関連記事
 ・「映画 太陽の子」場面写真解禁 荒廃した広島の姿は当時の写真をVFXを使って映像化や本物の写真を複写で黒崎博監督「人間の気持ちに訴える表現なのではないかと思う」と意図
 ・柳楽優弥「映画 太陽の子」完成披露試写会で「春馬くんをこれからもずっと愛して大切にしていきたい」……有村架純も「3人の空気感は穏やかなシーンになった」と滔々と想い
 ・有村架純 柳楽優弥と三浦春馬さんの撮影現場での性格の違い語る……黒崎博監督と3人で春馬さんへの思いで「自分たちの仕事・役目は想像力を届けることだ」

 ※記事内画像は(c)2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ

黒崎博監督が語る「映画 太陽の子」柳楽優弥、有村架純、三浦春馬さん起用の裏話……森コウプロデューサー苦労も「無茶なのだけれど優しさがある」2

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