俳優・生田斗真が白石和彌氏プロデュースで2022年公開予定の映画『渇水』を主演することが24日、発表となった。
1990年文學界新人賞受賞、103回芥川賞候補となり注目を浴びた、河林満氏の同名小説が原作。『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』、『孤狼の血 シリーズ』などを手がける白石氏が感動の人間ドラマに挑み、初プロデュースした意欲作。今年8、9月にかけ群馬県前橋市を中心に撮影を実施した。
生田は、水道料金を滞納する家庭の水を停める業務【=停水執行】に就く、市の水道局職員の岩切俊作役を演じる。心の渇きにもがく中で、育児放棄を受ける幼い姉妹との出会いから、ささやかな幸せを求めて本当の自分を取り戻してゆく男性という難しい役どころ。
メガホンを執るのは、岩井俊二監督作品『ラストレター』や、宮藤官九郎監督の数々の作品で助監督を務めた髙橋正弥氏が務める。
今回の起用などへ、生田、白石氏、髙橋監督、長谷川晴彦プロデューサーからコメントが寄せられた。以下全文。
●生田斗真
――出演オファーを受けられた際のお気持ちは?
生田:白石和彌さんをはじめ、制作スタッフや髙橋監督の熱意に感動しました。
みなさんが長年温めていた企画が、時を経てようやく形になる瞬間に立ち会える事、とても嬉しく思いましたし、お声をかけていただいた事を光栄に思います。
――主人公・岩切を演じられて
生田:空気や太陽の光はタダなのに、どうして水はタダじゃないんだと、世の不条理に疑問を持ち始める主人公に少しの希望と微かな光を与える事が出来たらという思いで精いっぱい演じました。
――髙橋監督について
生田:この作品に賭ける思いが非常に強く、情熱にあふれた監督です。これまで多くの方々の信頼を得てきた髙橋監督との撮影は私にとっても刺激的な毎日でした。
――白石和彌さんについて
多くの名作を残し続けている白石さんが、どのようにして別の視点から物語を創り出すのか、非常に興味を持ちました。
映画の現場が好きで、日々を面白く生きているユーモラスな方です。
――劇場公開を待つみなさまへメッセージ
生田:多くの事がシステム化され、疑問を持たずに波風を立てずに日々を過ごすことが上手な生き方なのかもしれません。ただ、なにか違う。このままでいいのかとふと立ち止まり、自分を見つめ直すことも悪くない。そう思わせてくれる作品です。公開を楽しみにしていてください。
●白石和彌氏
――映画化までの経緯
白石氏:ある日、長谷川プロデューサーから読んで欲しい脚本があると送られてきたのが本作の脚本でした。この企画自体は前々から存在していること、すでに脚本もできていることは風の噂で聞いていましたが、実際読ませて頂くと、脚本の持っている力に打ちのめされぜひ参加させて欲しいとお願いしました。
――原作小説について
白石氏:格差の中で生きる人々への眼差しが、時に優しく時に残酷で、ずっと身体の中に沈澱し続けるような原作でした。読みながら河林さんはいったいどんな方でどんな世界を見ていたのだろうと、そればっかりを考えていました。
――本作の魅力
白石氏:原作者の河林さんが見つめる社会への眼差しと、髙橋監督の優しさ、なんとしても今この映画を完成させて世に届けたいという執念が、これ以上ない形で凝縮されています。生きていくことを問いかける本作は社会の厳しさを描く反面、それでも強く生きていこうと思わせてくれる映画になっています。
――主演、生田斗真さんについて
白石氏:もう生田さん以外にありえないと思ってお願いしました。立ち姿が素晴らしいのはもちろんですが、主人公・岩切の抱える悲しみと苦悩を多く語らずとも表現してくれる俳優は生田さんだけではないかと、みんなの意見が一致してオファーさせて頂きました。スクリーンに映る生田さんは、やはりとてもたくさんのことを感じさせてくれる素晴らしい俳優です。生田さんの新しい側面をお見せできると思います。
――髙橋監督について
白石氏:私よりも先輩で多くの映画に関わられていて、映画界で活躍されているのはずっと知っておりました。初めてお会いした時にその人柄と映画に捧げてきた人生と、そして何よりその頑固で自分を曲げないところに完全にヤラれました。最高の監督です。
――今の時代に本作を通し伝えたいこと
白石氏:河林さんが小説を発表してから30年あまり世界は変わっていないどころか格差は広がりより生きづらくなっていると感じます。この映画はそんな社会に対して物申すというよりは、現代を生きる我々に欠けてしまったもの、必要なものを問いかける映画です。簡単に答えは出ませんが、その答えを探す過程こそが何よりも尊く、生きている意味を見つける近道なのだと思います。
――劇場公開を待つみなさまへメッセージ
白石氏:完成までもう少しです。私も早く大きなスクリーンで完成した状態を見たいです。そして多くの方とこの映画について語り合ってみたいです。みなさま、楽しみにお待ちください。
●髙橋正弥監督
――映画化までの経緯
髙橋監督:10年前に脚本を及川章太郎さんと作ってから、いろいろな方に読んでいただきました。その中で白石和彌監督と長谷川プロデューサーに読んでもらったところ、是非映画化した方が良いというご意見をいただき、お2人のご尽力でここに至りました。
――原作小説について
髙橋監督:市井を生きている人たちの悲哀とそこに生きる人々を見つめる視線に魅力があり、興味深く読ませて頂きました。原作で描かれている1990年代の事象は2020年代の現代でも何も解決していなく、抱えている問題は、未来を担うこれからの世代にも改めて伝えていかないといけないと思い、映画にすることを切に願いました。
――本作の魅力
髙橋監督:映画としましては、スタッフ・キャストともに脚本に惚れ込んでくれて参加して頂きました。その皆さんの想いや気持ちを感じ取りながら作ったものでありますので、それが充分に映像や演技に反映されているものだと信じています。そこを観客の皆さんに感じとって貰えたら、と思っています。
――主演、生田斗真さんについて
髙橋監督:岩切という主人公が持つ、顔の表情に現れない想いや苦悩などの内面に潜んでいるものを体現できる俳優さんだと思いキャスティングさせて頂きました。そのうちに秘めた感情を表に現す時の生田さんの演技には感服するものがありました。本来は笑顔が似合うチャーミングな方と思っていましたので、今回は演じづらいのかと思いましたが充分にやりきって頂いたと思っています。特に目で感情を語ることができる稀有な俳優さんだと改めて感じました。
――白石和彌さんについて
髙橋監督:白石さんとは演出部の系列が違っていたので今まで仕事をすることはありませんでしたが、今回脚本を読んで貰い、この作品の魅力を感じ取っていただき、前進させようとする様々なアイディア・方針付けに感謝しております。白石さんの一言やこうすべきだというアイディアは、映画化に向けて充分な原動力になっていると思います。
――今の時代に本作を通し伝えたいこと
髙橋監督:原作が刊行される以前のかなり昔からも、現在に至るこの現代でも「貧困」というものは無くなっていませんし、この先未来も無くならないのかもしれません。今回は「停水執行」という水に関わる問題でしたが、私たちの生活を脅かす不測の事態、それは原因不明の病気や感染症であったり、環境汚染だったり、自然災害だったり、原子力の問題だったり、様々な事態が我々の身の周りに起きうることであります。そんな大変な状況下になったとしても、他者、特に弱者に対して目を向けることを失わないようにしたいと思います。そしてこれから先の未来を担う子どもたちの人生に不安がないように様々な問題を解決する努力をすることが、今作の一端から感じ取って頂けたらと考えております。また日本文学では「家族のあり方」というものが語り継がれてきましたが、過去現在そして未来もその「家族のあり方」は問われ続けていくのだと思いますので、この原作・映画からもそこを読み・観て欲しいと思っています。
――劇場公開を待つみなさまへメッセージ
髙橋監督:有名な原作小説ではありませんし、爽快・痛快なエンタテインメント映画、心ときめく恋愛映画、ハラハラドキドキのアクション映画でもありません。とても小さな小さな世界の物語ですが、生田さんはじめ参加してくれたキャスト・スタッフが一丸となって、観客のみなさんに届けたいと願って作った映画をぜひご覧ください。
●長谷川晴彦プロデューサー
――映画化までの経緯
長谷川プロデューサー:この企画自体は、10年程前に髙橋監督が立ち上げていて、私の元に相談があったのは3年前でした。ただ、以前から、「渇水」という素晴らしい脚本があるという噂は耳にしたことがあり、その脚本が自分の手元に来るとは思っていなかったので、相談があった時は運命めいたものを感じました。実際にその脚本を読んでみると、本当に素晴らしい脚本でしたので、必ず実現して、世の中にこの映画を出さないといけないという使命感を強く抱きました。
――原作小説について
長谷川プロデューサー:一人の水道局員の目線を通じて、格差社会やネグレクト、貧困など現代も抱える問題が明確に描かれていたことと、また、それが故に現代に置き換えて良質なヒューマンドラマが構築出できると考えたからです。
――本作の魅力
長谷川プロデューサー:抜群に素晴らしい脚本、その脚本に魅せられた生田さんの役に憑依した演技力、髙橋監督の実直な演出など魅力は数多ありますが、様々なキャスト・スタッフが本作の脚本の元に、運命的に集まり、その実力を余すところなく発露したところです。
――主演、生田斗真さんについて
長谷川プロデューサー:最初のキャスティング会議の際、髙橋監督や白石さんから生田さんのお名前が挙がりました。私も同じ思いでしたので、みんなの総意ということで、オファーしました。脚本をお渡しして、1週間も掛からず、ご快諾頂きました。大変興奮しましたのを昨日のように覚えています。監督との初めてのお打合せの際、生田さんの大きな瞳に吸い込まれそうで、役者さんとしての魅力を改めて感じましたのと、一見地味な主人公である・岩切俊作に華が加わることで、主人公のキャラクターと脚本の魅力がさらに増すことを確信しました。撮影時に驚いたことがあります。今まで、数々の役を演じていた生田さんのキャリアの中でも、かなり地味な役だったと思うのですが、カメラ前に立つ生田さんが今まで見たことのない表情を見せるのです。生田斗真さんの役者としての奥深さ、底知れぬ力を痛感しました。
――髙橋監督、白石和彌さんについて
長谷川プロデューサー:お二人が直接お会いしたのは、本作が初めてとなりますが、実はお互いの存在は10年以上前から知っている仲でした。お二人とも映画を何よりも愛している方々で、この作品がお2人を引き合わせたのだろうと思います。実直な演出が特徴の髙橋監督と日本映画界を牽引する白石さんの組み合わせは足し算ではなく、掛け算となり、本作を更なる高みへと導いてくれると信じています。
――今の時代に本作を通し伝えたいこと
長谷川プロデューサー:人間が生きて、文明社会を構築していく中で、格差社会・ネグレクト・貧困は永遠の問題なのだと思います。本作には、そのテーマが深く描かれていますが、一方で、何よりも描きたかったのは心が渇き切った一人の人間の心が潤っていく過程でした。その過程の機微を本作ほど丁寧かつ優しく描かれている作品を私は知りません。そういう意味では、本作ではそれを余すところなく、具現化できていると思います。
――劇場公開を待つ皆様へメッセージ
長谷川プロデューサー:「渇水」は心温まるヒューマンドラマです。映画界を牽引する白石和彌さんと、監督補やプロデューサーとして長らく実直に映画界を支えてきた髙橋正弥監督の元、生田斗真さん始め、素晴らしいキャストと熱い心と技術を持ち合わせたスタッフが、何かしらの運命を感じて集まり、皆で寝食を共にして、素晴らしい作品に仕上げました。本作は一人の男の渇き切った心が、様々な過程を経て、潤っていく姿を描いています。皆様におかれましては、その姿を劇場でご覧頂くことによって、ご自身の心も潤っていくのを感じて頂けると思います。是非、劇場で心を満たしてください。
■STORY
日照り続きの夏、市内には給水制限が発令されていた。市の水道局に勤める岩切俊作(生田斗真)の業務は、水道料金滞納家庭や店舗を回り、料金徴収と、水道を停止すること【=停水執行】。貧しい家庭を訪問しては忌み嫌われる日々であった。俊作には妻と子供がいるが別居中で、そんな生活も長く続き、心の渇きが強くなっていた。ある日、停水執行中に育児放棄を受けている幼い姉妹と出会う。自分の子供と重ね合わせてしまう俊作。彼は自分の心の渇きを潤すように、その姉妹に救いの手を差し伸べる――。
※初稿にて白石和彌氏のコメントの部分の表記を誤表記しておりました。お詫びして訂正致します。
※記事内画像は(c)2022『渇水』製作委員会