2025年2月より老朽化による建て替えのため一時休館となる帝国劇場。
2030年度に開場を目指している新・帝国劇場の概要に関する記者発表会見が1月16日に帝国劇場内で開催。劇場設計を建築家・小堀哲夫氏が担当することや、そのコンセプトなどが発表となった。
まず、小堀氏を選定の経緯としては、2022年に『指名型プロポーザルコンペ』(オープンコンペとは異なり、東宝株式会社が指名した者が参加できる形式)を実施したという。この過程で同社では、さまざまな設計者の中から、実績、デザイン、将来性等 において新帝劇の設計候補者としてふさわしい複数の方に提案をしてもらい、有識者も含めた選定委員会を 設け、厳正な審査をした結果、小堀哲夫(こぼり・てつお)氏が選定された。
小堀氏が提案したのは、帝劇の継承と発展を十分に理解したものだったといい、同社側は「新しい帝国劇場のあり方を的確に捉え、期待感に溢れる提案内容」だったとしている。
会見に出席した池田篤郎常務は、コンペの際に自身は「ファーストインプレッションでこれだと思った」と自身の感性に訴えかけるものがあったと振り返りつつ、その決め手の1つとして、「検討して頂いた深度、歴史も研究なさっているし、ロケーションの長所を体感されていて、それを活かしてくださっているのが嬉しかったです」という。
また、建築素材選びに関連し池田常務は「本物感を重視していますので、素材の選び方は『華美ではないけど、質実ともなっているものを選んでいきたい』とおっしゃられたのたので、そこを信頼しております」と、エピソードも話していた。ただし、昨今の世界情勢として建築素材の費用は、「大変厳しい状況にあると思います」と同社ではコントロールしきれない部分もあると話しつつも「われわれの帝国劇場は、会社のブランドでランドマークでもあるので、この劇場を作るという揺るぎない意志で臨んでおります」と、決意を持って臨むと話していた。
新しい帝国劇場の建築のコンセプトは、『THE VEIL』(ザ・ヴェール)となったこともアナウンス。このコンセプトについて、帝国劇場は皇居に面し、水のきらめき・美しい光・豊かな緑といった唯一無二の環境に恵まれており、それらの自然を纏い、自然に包み込まれるようなイメージが、新しい劇場にふさわしいとの考えからこうしているという。自然の移ろいを感じながら、ヴェールの向こう側の世界を想像することで、人々の期待感は最高潮に達し、ホワイエの華やかな風景が街から垣間見えることで、街の舞台となるような劇場を目指していく。
小堀氏は「エントランスから入った時にヴェールをくぐるように、さまざまな空間を経ていきます。客席、舞台に続く空間体験を新しい帝国劇場では実現したい」と、この場所でしかできない観劇体験をつくり出していくことを目標に掲げる。なお、新・帝国劇場はエントランスの位置は現・帝国劇場と変わらないそうだが、舞台は現劇場から90度変えるといいエントランスからそのまままっすぐ舞台に向くようになるとのこと。また、「自然光をどれだけ取り入れられるかと考えています」とも話していた。
ほか、新・帝国劇場の特徴も発表。①劇場の配置を90度回転/正面性のあるアプローチ、②見やすくゆとりがあり一体感のある客席、③最先端の技術を備えた、演出の可能性を最大限引き出す舞台、④ロビー・ホワイエ空間・機能の強化/劇場と日比谷の街をつなげる劇場カフェの整備、⑤劇場全体でのアクセシビリティ強化の5つとしている。(※詳細は文末にて)。
記者との質疑応答では、新劇場の客席からの舞台の見やすさの検証は考えられている?との質問に、小堀氏は近代の技術でVR化での手法も取り入れているといい、「1階は傾斜を強めして、2階からも見えやすいくし、劇場からどのよう見えやすくなるかというのをVRゴーグルで確認・検証してもらいながら進めています」としている。
現・帝国劇場内にはステンドグラスなども特徴としてあるが、こうしたものを残していくことはあるのかへ、池田常務としては「残せるところは残したいという気持ちはありますが、まこのようにしますということはお伝えできる状況でありません。ですが、我々の考えの上では、できる限りしていきたいと思います」と、自身の気持ちを話す。
さらに、トイレは増加したりする?という問い掛けに池田常務は「具体的な個数は現有よりは増やしていこうと思っております」とし、「トイレの列ができてもロビー空間を大きく占拠することのないようにという設計」をしているとのこと。小堀氏も「シミュレーション技術を使ってトイレの個数とどれだけ人が並ぶのかを検証してまいりました。とくにトイレの待ち時間によって人がどれだけロビーにはみ出るかということを検証しています。動線を気を付けながら今の劇場からは格段に良くなっているのではないかなと思います」とのことだった。
■設計者プロフィール
小堀哲夫/建築家・法政大学教授
1971年9月29日 岐阜県生まれ。
日本建築学会賞、JIA日本建築大賞、Dedalo Minosse 国際建築賞特別賞、 Architecture Master prize など国内外において受賞多数。
代表作品に「ROKI Global Innovation Center-ROGIC-」「NICCA INNOVATION CENTER」「梅光学院大学 The Learning Station CROSSLIGHT」「光風湯画べにや」など。その場所の歴史や自然環境と人間のつながりを生む、新しい建築や場の創出に取り組む。
■新・帝国劇場の特徴
① 劇場の配置を90度回転/正面性のあるアプローチ
メインエントランスはこれまでと同様、丸の内5th通り側になりますが、劇場の配置を90度回転することで、エントランスの正面に客席を配置した計画となります。正面性が高まることで格式高い劇場空間になるとともに、開演・終演時の混雑緩和に配慮した動線計画となっています。
②見やすくゆとりがあり一体感のある客席
この場所でしか体験できない、より一体感が感じられる客席空間とします。現在の劇場と同等数 程度の客席数を設けながら、現・劇場より見やすいサイトラインを備えた、ゆとりのある座席とし、今まで以上に快適な観劇環境とします。あらゆるお客様が観劇を楽しめる多様な客席を計画しております。
③最先端の技術を備えた、演出の可能性を最大限引き出す舞台
現在と同規模の舞台空間とし、演出の自由度のある設えとしております。舞台袖上部には、十分な作業性・安全性を確保したテクニカルギャラリー等を設ける計画としています。さらに世界レベ ルの最先端の舞台技術を導入いたします。楽屋やスタッフのスペースの快適性にも配慮し、誰にとってもここちよい帝劇を目指します。
④ロビー・ホワイエ空間・機能の強化/劇場と日比谷の街をつなげる劇場カフェの整備
ロビー・ホワイエ空間が広がり、よりここちよく過ごせるとともに、カフェやバーなどの充実を 図ることで多様な過ごし方ができる空間となります。またトイレ等のユーティリティ機能を拡充し、幕間も含めた総合的な観劇体験の充実を図ります。さらに、有楽町駅の南東の一角には、一 般の方も利用できるカフェ等を劇場に併設し、観劇前後や公演以外の時間も楽しめる劇場となりま す。劇場と丸の内の街がより一体となって、地域に親しまれる劇場を目指します。
⑤劇場全体でのアクセシビリティ強化
新たな劇場もこれまでと同様、都内の複合施設では数少ない。1階に客席がある劇場となります。 屋外から段差なく客席までアクセスでき、まもと劇場のつながりもより感じられる劇場となりま す。地下には、エレベーター・エスカレーターを設けた劇場ロビーを新設します。地下鉄からもよ リアクセスしやすくなり、多様なお客様が劇場へ訪れやすい計画になっております。また施設内の 商業スペース等へもアクセスしやすく、公演前後の体験も含めて、誰もがここちよく楽しめる劇場となります。
取材・撮影:水華舞 (C)エッジライン/ニュースラウンジ